没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
私はカウンターテーブルの上に四つ折りにしていたカヌレレシピの写しを広げた。このレシピはお母様から教わったもので、そこに私が赤鉛筆で改良した内容を書き込んでいる。
昨日のカヌレは外側のカリッと感が足りなかった。その原因は焼き上げるオーブンの温度が低かったことが原因だった。
「オーブンの温度をもっと上げた方が良さそうね。まずは温度を十度ずつ上げてどれが一番カリッとして芳ばしいか検証してみましょう」
ただし温度を上げすぎてしまうとカヌレの底面が焦げ付いてしまうから気をつけないといけない。私が紙の余白部分に温度の一覧を書いていると、チリンチリンとドアベルが鳴った。
「いらっしゃいま、せ……」
顔を上げて店内に入ってきた人物を確認した途端、私は言葉を失いそうになった。危うく顔色までも失いそうになったので慌てて笑顔を貼り付ける。