没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


「アル様との時間は新しいアイディアが浮かぶし、お菓子の感想をもらえるからとても大切な時間だけど。……やっぱり、ネル君ともっとお話がしたいわ! ねえラナ、どうしたらいいかしら?」
 店内から追加の焼き菓子を取りに来たラナに、私は悩みを打ち明けた。
 ラナは持ってきたお盆にラッピングしたクッキーの詰め合わせをのせ終えると、目を眇めてみせる。
「ネル君にも事情がありますから。あまり無理を言ったらダメですよう」
「それは分かってるわ。だけど、一緒に過ごせる時間が減っているのよ? 癒しが足りなくなったというか何というか……」
 最後になるにつれて尻すぼみになっていく私にラナは微苦笑を浮かべた。

「お嬢様がネル君にメロメロなのは存じておりましたが、いつそこまで重症になったんですか? ネル君ならもうすぐ接客が終わるのでこちらにやって来ますよう」
 ラナがそう言った直後にネル君は厨房にやって来た。

「お嬢様、今日はこれで上がらせていただきます。あとご褒美のお菓子は持って帰ってお家で食べますね」
 ネル君はてきぱきと帰りの身支度を整えると、ラナの隣に並んでクッキーの詰め合わせを手に取った。
「お疲れ様。いつも手伝ってくれてありがとうね。せめてお茶くらい飲んで行かない?」
「ごめんなさい。僕これから別のことで行かなくちゃいけなくて」
 私が提案するとネル君は眉尻を下げて謝ってくる。

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