没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
18
その日の夕方、いつものように閉店時間のギリギリにアル様はお店にやって来た。
「いつもお仕事お疲れ様です。お茶とケーキの準備ができています!」
ネル君から元気をもらった私は溌剌とした声でアル様に話しかける。
するとアル様は私と目が合うと何故か視線を泳がせる。よく見ると頬も赤いし、もしかして熱でもあるのかもしれない。
「アル様、体調が優れないのですか?」
心配になった私は距離を詰めると、腕を伸ばしてアル様の額に手を付けた。
「うーん。少し熱っぽいような。もしかして風邪、でしょうか?」
私が眉根を寄せるとアル様が優しい手つきで私の手首を掴んで額から引き剥がす。
「心配無用です。今日はちょっと暑くて、体温が上がっているだけだから」
きらきらしい笑顔を向けられ、そこで私は漸く彼に近づきすぎていることに気づいた。
慌ててアル様から離れる。
「ごめんなさい。馴れ馴れしかったですね」
アル様の雰囲気がネル君と似ているから、ネル君と同じ態度で接してしまう。
「それで今日はどんなケーキが食べられるのかな?」
気まずくならないようアル様が話題を振ってくれたので、私はここぞとばかりに食いついた。
「ア、アップルタルトと、あと改良したカヌレです! どうぞ、いつもの席へ!」
アル様をいつものテーブル席に案内すると用意していたケーキとお茶のセットを取りに行く。
――嗚呼、距離感を見誤ってしまったわ。アル様は大事なお客様でネル君じゃないのに私ったら……。