没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
ネル君と同じような態度で接してしまったことが恥ずかしくて、私は手でぱたぱたと扇ぎながら顔の熱を取ろうとする。
顔の熱が落ち着きはじめたところで私はアル様の方をちらりと見た。
テーブル席の二人がけのソファに腰を下ろすアル様はやはり、ネル君と雰囲気がどこか似ている。きっとそのせいで私はアル様に接する距離感がおかしくなってしまっている。
「大事なお客様なんだからこれ以上粗相しないように気をつけないと」
落ち着きを取り戻した私は呼吸を整えると、お盆の取っ手を掴んだ。
アル様のもとに向かった私は早速テーブルの上にケーキとお茶のセットを並べていく。
向かい席にも同じものを置いて私はそこに座った。
「お待たせしました」
皿の上にのっているのはバターと砂糖で煮詰めたリンゴをくるくると巻いて薔薇の形にしたアップルタルトだ。縁や隙間には生クリームとミントで飾り付けをしている。
今回は見た目が華やかだし、リンゴの美味しさを存分に楽しめるよう、アラザンやチョコレートなど主張の強いトッピングはしていない。
そしてアル様のアップルタルトの横には、改良したカヌレがちょこんとのっている。
カヌレは十度ずつオーブンの温度を上げて焼いた後、私の方で試食をして一番手応えを感じたものを出した。
個人的にうちのオーブンだと二百度の温度で焼成するのが一番カリッとしていて美味しかった。それ以下だとカリッと感にパンチが足りず、それ以上だと固くなりすぎてしまう。