没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
アル様はお茶を口に含むと試作品のカヌレから食べ始めた。
お出しする前にカヌレを最終確認したけれど、表面の茶色い部分は指で叩くとコンコンと音がするくらい焼き上がっていて、囓ってみると理想的なカリカリ具合だった。中の生地はしっとり柔らかで弾力があり、ラム酒とバニラの香りが鼻を抜けていく。
今回は自信があるのできっとアル様も認めてくれるはずだ。
固唾を飲んで見守っていると、食べ終えたアル様が真面目な顔で私を見る。
膝の上に拳を置いて背筋を伸ばすと私はアル様を見つめ返した。
緊張が走る瞬間だった。
「…………この前と比べて今回のカヌレは凄く美味しい。南西地方で食べた味によく似ているから出しても問題ないと思う」
「本当ですか? 嬉しいです!!」
私は心の中で拳を掲げた。これで満を持してカヌレをお店に出すことができる。
カヌレは形を変えることができないから、可愛さを出すならやはりトッピングだろうか。
とにかく、今は合格をもらえた喜びに浸っていた。