クズな王子はお断りします


◯翌日 校内(登校時間・朝)

 生徒が溢れかえる登校時間。
 黄色い歓声と共に人だかりが出来ている。

 確認しなくてもわかる。

 ――いる!

陽夏(あの人だかりの先にいるのは央士くんだ)

 央士と関わりたくない陽夏は、見つからないように人だかりを避けて教室へと向かう。




央士「おはよう、百瀬さん」

 避けていたにも関わらず、央士は自分に群がる生徒を掻き分けて、陽夏の元へやってくる。


 その笑顔は爽やかで周りにはキラキラしたオーラまで見える。
 昨日のことはなかったかのように、いつも通りの王子くんこと央士くんだった。

陽夏(昨日の央士くんと同一人物には到底思えないなあ。もしかして、昨日のことは夢とか?)

陽夏「お、おはよう」

央士「……おい、昼休みに第二図書室こいよ?」

 周りには聞こえないように陽夏の耳元で囁いた。そして、振り向きながら陽夏にだけに分かるように意地悪く笑う。


陽夏(……やっぱり、夢なんかじゃなかった。央士くんは爽やか王子じゃなくて……クズ王子だ!)


 陽夏はクラスで目立つ方じゃない。
 四軍で地味目なことは自分でも理解していた。


 そんな目立たない陽夏に央士が話しかけてきたので、見ていた生徒たちが今度は陽夏に群がってきた。



女子生徒「ねえ、百瀬さん?央士くんと仲良かったの?」
女子生徒「百瀬さん、央士くんとどういう関係?」

陽夏「えー、いや、仲良くないよ、全然……」

女子生徒「なーんだ!」

 陽夏の返答を聞くと、すぐに集まっていた人だかりはなくなった。

 それはそうだ。陽夏にできた人だかりではなく、央士と仲がいいかもしれないと疑ってできた人だかりなのだから。



生徒「……百瀬さん?」

陽夏「……あ、え?」


 群がる人はいなくなったが、一人だけクラスメイトの女子が残って、陽夏に話しかける。

生徒「……でも良かったね?聞かれたのが桜小路さんだったら……どうなっていたことか」

陽夏「え、桜小路さん?なんで、だめなの?」

生徒「百瀬さん、知らないの?桜小路さんは央士くんのことが好きで、ファンの子が手を出さないように、裏で糸を引いてるって噂だよ?」

陽夏(なにそれ、怖い。関わりたくないな)

生徒「だから、桜小路さんの前では、央士くんと仲良く話したりしない方が身のためだよ?」

陽夏「……ご忠告ありがとう。そうするね」

陽夏(まあ、もう関わらなければ大丈夫だよね。平穏な学校生活を送りたいもん)



⚪︎校内廊下


女子生徒たちの間で央士の話が繰り広げられている。


女子生徒「王子くんのお父さんって、パイロットなんだよね?」
女子生徒「お母さんは小説家らしいよ?」
女子生徒「どこの航空会社のパイロットなんだろう?」
女子生徒「そういえば、お母さんのペンネームも恥ずかしいからって、教えてくれないよね」

女子生徒「「でも、謎なところもかっこいいー!!!」」


 校内ではあちこちで央士の話題で盛り上がる女子生徒がいるので、央士に関心が全くない陽夏の耳にも、嫌でも聞こえてくる。


陽夏(あれ?央士くん、お父さんいないって言ってなかったっけ?パイロットなら、お金に困ることなんてなさそうだけどな。……昨日はお金のためって言ってたけど……みんな噂してることと違う。どういうことだろう?)


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