吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~
100 シリウス王へ謁見します
アーヴェントとアナスタシアを乗せた馬車は目立たぬようにリュミエール城へ入城を果たした。出迎えた兵士達も全てシリウス王を支持する派閥の者達だったからだ。王の『影』という者達の能力の高さが伺える。
だがここまで『影』達が大きく事を動かせたのもレイヴン達が仕掛けてきた今回の襲撃をアーヴェント達が迎え撃ったこと、そして何よりもアナスタシアの手にした今は亡きラスター公爵の証拠があったからこそだ。
(リュミエール城……懐かしい。小さい頃よく妃修行で通っていたものね。シリウス陛下もアルトリア王妃も優しかったのを今でも覚えている……まさかこんな形で再びお城に上がる日がくるなんて思ってもいなかった。でも、今がその時なのね)
「アナスタシア、手を」
「はい。アーヴェント様」
城の入り口に停車した馬車から先に下りたアーヴェントが柔らかい表情を浮かべながら手を差し出してくれる。アナスタシアも青と赤の両の瞳で彼を見つめながら、その優しい手を取り、馬車から降りていく。
「アーヴェント様、それでは私はリチャード様をお迎えにいってまいります」
「ああ、フェオル。頼んだぞ」
「おまかせください」
御者の席に座ったまま、フェオルは二人に深い礼をすると馬車を走らせて城の門へと向かっていく。フェオルの魔法を駆使して、シェイド王国に残っていたリチャードを連れてくる算段だと城へと向かう車内でアナスタシアはアーヴェントから説明を受けていたのだ。
(みんなが力を貸してくれている……私もしっかりと見届けなくてはいけないわね)
案内役の兵士に従い、アーヴェントとアナスタシアは王の間へとたどり着く。城の中に入ったが未だにレイヴン達の気配は感じられない。ゆっくりと王の間の扉が開くと、玉座にはシリウス王の姿があった。傍らには王妃であるアルトリアの姿もある。『影』によって軟禁から解放されたようだ。
(軟禁されていたと聞いて心配していたけれど、陛下も王妃様もお元気そうでよかった)
アーヴェントとアナスタシアは王の間へと入ると、二人の前で深い礼をしてみせる。更に一歩前に踏み出したアーヴェントが跪きながら挨拶の言葉を口にする。
「シリウス陛下、ご機嫌麗しゅうございます。シェイド王国から参りました。オースティン家当主、アーヴェント・オースティンでございます」
「そなたがオースティン公爵か。よくぞ来てくれた。頭を上げてくれ。この度の一連の件、私からも礼を言わせてもらおう」
アーヴェントはその言葉を聞いて、再び礼をした後立ち上がる。シリウス王はそのまま傍らに立つ可憐な令嬢であるアナスタシアの方に目を向ける。
「アナスタシア、見違えるほどに美しくなったな。そして元気そうで何よりだ」
「ご無沙汰しております、陛下。お話は聞かせて頂きました。陛下の寛大なお心遣いのおかげで、私はこうして元気に暮らせておりました」
シリウス王は静かに頷く。
「お前は私が信頼していたラスターとルフレの忘れ形見だからな。だが、当時の私に出来たことはあまりに少ない。こちらの身動きが取れなかったこの数年間、お前にはつらい想いをさせてしまっていた。そして此度の件で多大な迷惑をかけてしまったことをここで謝罪させて欲しい」
「私も同じ気持ちです。アナスタシア」
シリウス王に続き、王妃であるアルトリアも謝罪の言葉を口にする。二人の表情は真剣そのものだった。
(陛下も王妃様もずっと私のことを想っていてくれたのね……お父様、お母さま。私はとても幸せ者です)
「もったいないお言葉です、陛下」
アナスタシアは潤んだ青と赤の瞳で二人を見つめながら礼をしてみせる。それをアーヴェントも見守っていた。ひとしきりの挨拶が済んだ所でアーヴェントは本題に移る。
「陛下、レイヴン達は今どうしているのですか?」
軽くため息を漏らしながらシリウス王は言葉を口にする。
「奴らは自分達の計画が上手くいったと思い込み、祝いの宴を別所でしていると『影』達から知らせがあった。もうすぐ、騒ぎを聞きつけこの王の間へと姿を現すだろう」
なるほど、とアーヴェントが呟く。
「オースティン公爵、これからのことは任せてよいだろうか」
「お任せください、陛下。その為に私達はここに来たのですから」
シリウス王をアーヴェントの深紅の両の瞳が見つめる。その強い眼差しを目にしたシリウス王はアーヴェントを大きく評価していた。
「良い目をしているな……ならば任せよう。アナスタシアも宜しく頼む」
「はい。陛下」
アーヴェントに続き、アナスタシアも礼をしてみせる。すると王の間の外から怒号が響いてきた。
「王太子であるオレに許可も得ずに玉座に人をいれるとはどういうことだ!? 早く扉を開けろ!」
その声は王太子であるハンスだった。『影』から流された話にのり、やってきたようで門番である兵士達に強く言葉をぶつけているのが聞いてとれる。その後すぐに王の間への扉が開くと鬼のような形相をしたハンスが中に入ってくる。後ろには婚約者であるフレデリカ、レイヴン、クルエが続く。
(ハンス殿下に叔父様達……陛下の言う通り、話を聞きつけて皆でやってきたのね)
「誰だ! 勝手に王の間を穢す愚か者は!」
「ハンス様の仰る通りだ。この私も今回の件は聞いておらんぞ!」
ハンスの勢いに続いてレイヴンも声を荒げる。だが、玉座につくシリウス王の姿を見て態度が一変する。軟禁しているはずの王が目の前にいるのだ。驚かずにはいられないだろう。
「ち、父上……何故、こちらに……?!」
「へ、陛下……!?」
狼狽える二人をシリウス王は訝し気に見つめていた。後ろを歩くフレデリカ達が傍らに立つアナスタシア達に気付いた。
「ハンス様……! アナスタシアと……あの時の公爵ですわっ!」
「な、何故こんな所にアナスタシアが……?!」
フレデリカに続き、クルエも驚きの表情を浮かべていた。シリウス王の傍らに立つ二人の姿を目にしたレイヴンとハンスは更に狼狽えてみせる。
「あ、アナスタシアだと……?!」
「それに……お、オースティン公爵……な、何故!?」
ハンスに続いて、レイヴンも顔から血の気が引いていく。まるで幽霊でも見たかのように、青ざめていた。その様子を見たアーヴェントが口を開いた。重い口調でハンス達に迫る。
「俺が生きているのがそんなにおかしいか?」
「き、貴様! 王太子であるオレに対してそ、その物言いはなんだ!」
アーヴェントを指さしてハンスは狼狽えながらも声をあげる。だが、その発言はシリウス王の言葉によってかき消された。
「王である私が許可しているのだ、ハンス。お前こそ、公爵に対する無礼は私が許さぬ」
「ち、父上……れ、レイヴン、これは一体どういうことなんだ!?」
「ど、どういうことと言われましても……私も理解が追い付いておりません」
状況を理解出来ないハンスは傍らで冷や汗を額に浮かべるレイヴンを見る。レイヴンにも全く状況がつかめていないようだ。その様子を見たシリウス王が口を開く。
「ここにいるオースティン公爵とその婚約者である令嬢アナスタシアは私がこの城に招いたのだ」
その言葉を聞いたハンスやレイヴン達は動揺を隠せずにいた。ハンスの傍らに立つフレデリカやクルエに至っては開いたままの口元に両手を当てている。
「アナスタシア、準備はいいか?」
「はい。アーヴェント様」
二人は見つめ合う。それだけでお互いの気持ちが通う。アナスタシアは胸に右手をそっと添え、刹那その瞳を閉じる。
(お父様、お母様。どうか、見ていてください……私の愛するアーヴェント様と共に、全てのしがらみに決着をつけてみせます……!)
狼狽えるハンス達をアーヴェントとアナスタシアは真っすぐに見つめる。二人が携えた深紅の瞳、そして青と赤の瞳によってハンスやレイヴン達が行って来た悪事の全てが明らかになる時が来たのだ。
だがここまで『影』達が大きく事を動かせたのもレイヴン達が仕掛けてきた今回の襲撃をアーヴェント達が迎え撃ったこと、そして何よりもアナスタシアの手にした今は亡きラスター公爵の証拠があったからこそだ。
(リュミエール城……懐かしい。小さい頃よく妃修行で通っていたものね。シリウス陛下もアルトリア王妃も優しかったのを今でも覚えている……まさかこんな形で再びお城に上がる日がくるなんて思ってもいなかった。でも、今がその時なのね)
「アナスタシア、手を」
「はい。アーヴェント様」
城の入り口に停車した馬車から先に下りたアーヴェントが柔らかい表情を浮かべながら手を差し出してくれる。アナスタシアも青と赤の両の瞳で彼を見つめながら、その優しい手を取り、馬車から降りていく。
「アーヴェント様、それでは私はリチャード様をお迎えにいってまいります」
「ああ、フェオル。頼んだぞ」
「おまかせください」
御者の席に座ったまま、フェオルは二人に深い礼をすると馬車を走らせて城の門へと向かっていく。フェオルの魔法を駆使して、シェイド王国に残っていたリチャードを連れてくる算段だと城へと向かう車内でアナスタシアはアーヴェントから説明を受けていたのだ。
(みんなが力を貸してくれている……私もしっかりと見届けなくてはいけないわね)
案内役の兵士に従い、アーヴェントとアナスタシアは王の間へとたどり着く。城の中に入ったが未だにレイヴン達の気配は感じられない。ゆっくりと王の間の扉が開くと、玉座にはシリウス王の姿があった。傍らには王妃であるアルトリアの姿もある。『影』によって軟禁から解放されたようだ。
(軟禁されていたと聞いて心配していたけれど、陛下も王妃様もお元気そうでよかった)
アーヴェントとアナスタシアは王の間へと入ると、二人の前で深い礼をしてみせる。更に一歩前に踏み出したアーヴェントが跪きながら挨拶の言葉を口にする。
「シリウス陛下、ご機嫌麗しゅうございます。シェイド王国から参りました。オースティン家当主、アーヴェント・オースティンでございます」
「そなたがオースティン公爵か。よくぞ来てくれた。頭を上げてくれ。この度の一連の件、私からも礼を言わせてもらおう」
アーヴェントはその言葉を聞いて、再び礼をした後立ち上がる。シリウス王はそのまま傍らに立つ可憐な令嬢であるアナスタシアの方に目を向ける。
「アナスタシア、見違えるほどに美しくなったな。そして元気そうで何よりだ」
「ご無沙汰しております、陛下。お話は聞かせて頂きました。陛下の寛大なお心遣いのおかげで、私はこうして元気に暮らせておりました」
シリウス王は静かに頷く。
「お前は私が信頼していたラスターとルフレの忘れ形見だからな。だが、当時の私に出来たことはあまりに少ない。こちらの身動きが取れなかったこの数年間、お前にはつらい想いをさせてしまっていた。そして此度の件で多大な迷惑をかけてしまったことをここで謝罪させて欲しい」
「私も同じ気持ちです。アナスタシア」
シリウス王に続き、王妃であるアルトリアも謝罪の言葉を口にする。二人の表情は真剣そのものだった。
(陛下も王妃様もずっと私のことを想っていてくれたのね……お父様、お母さま。私はとても幸せ者です)
「もったいないお言葉です、陛下」
アナスタシアは潤んだ青と赤の瞳で二人を見つめながら礼をしてみせる。それをアーヴェントも見守っていた。ひとしきりの挨拶が済んだ所でアーヴェントは本題に移る。
「陛下、レイヴン達は今どうしているのですか?」
軽くため息を漏らしながらシリウス王は言葉を口にする。
「奴らは自分達の計画が上手くいったと思い込み、祝いの宴を別所でしていると『影』達から知らせがあった。もうすぐ、騒ぎを聞きつけこの王の間へと姿を現すだろう」
なるほど、とアーヴェントが呟く。
「オースティン公爵、これからのことは任せてよいだろうか」
「お任せください、陛下。その為に私達はここに来たのですから」
シリウス王をアーヴェントの深紅の両の瞳が見つめる。その強い眼差しを目にしたシリウス王はアーヴェントを大きく評価していた。
「良い目をしているな……ならば任せよう。アナスタシアも宜しく頼む」
「はい。陛下」
アーヴェントに続き、アナスタシアも礼をしてみせる。すると王の間の外から怒号が響いてきた。
「王太子であるオレに許可も得ずに玉座に人をいれるとはどういうことだ!? 早く扉を開けろ!」
その声は王太子であるハンスだった。『影』から流された話にのり、やってきたようで門番である兵士達に強く言葉をぶつけているのが聞いてとれる。その後すぐに王の間への扉が開くと鬼のような形相をしたハンスが中に入ってくる。後ろには婚約者であるフレデリカ、レイヴン、クルエが続く。
(ハンス殿下に叔父様達……陛下の言う通り、話を聞きつけて皆でやってきたのね)
「誰だ! 勝手に王の間を穢す愚か者は!」
「ハンス様の仰る通りだ。この私も今回の件は聞いておらんぞ!」
ハンスの勢いに続いてレイヴンも声を荒げる。だが、玉座につくシリウス王の姿を見て態度が一変する。軟禁しているはずの王が目の前にいるのだ。驚かずにはいられないだろう。
「ち、父上……何故、こちらに……?!」
「へ、陛下……!?」
狼狽える二人をシリウス王は訝し気に見つめていた。後ろを歩くフレデリカ達が傍らに立つアナスタシア達に気付いた。
「ハンス様……! アナスタシアと……あの時の公爵ですわっ!」
「な、何故こんな所にアナスタシアが……?!」
フレデリカに続き、クルエも驚きの表情を浮かべていた。シリウス王の傍らに立つ二人の姿を目にしたレイヴンとハンスは更に狼狽えてみせる。
「あ、アナスタシアだと……?!」
「それに……お、オースティン公爵……な、何故!?」
ハンスに続いて、レイヴンも顔から血の気が引いていく。まるで幽霊でも見たかのように、青ざめていた。その様子を見たアーヴェントが口を開いた。重い口調でハンス達に迫る。
「俺が生きているのがそんなにおかしいか?」
「き、貴様! 王太子であるオレに対してそ、その物言いはなんだ!」
アーヴェントを指さしてハンスは狼狽えながらも声をあげる。だが、その発言はシリウス王の言葉によってかき消された。
「王である私が許可しているのだ、ハンス。お前こそ、公爵に対する無礼は私が許さぬ」
「ち、父上……れ、レイヴン、これは一体どういうことなんだ!?」
「ど、どういうことと言われましても……私も理解が追い付いておりません」
状況を理解出来ないハンスは傍らで冷や汗を額に浮かべるレイヴンを見る。レイヴンにも全く状況がつかめていないようだ。その様子を見たシリウス王が口を開く。
「ここにいるオースティン公爵とその婚約者である令嬢アナスタシアは私がこの城に招いたのだ」
その言葉を聞いたハンスやレイヴン達は動揺を隠せずにいた。ハンスの傍らに立つフレデリカやクルエに至っては開いたままの口元に両手を当てている。
「アナスタシア、準備はいいか?」
「はい。アーヴェント様」
二人は見つめ合う。それだけでお互いの気持ちが通う。アナスタシアは胸に右手をそっと添え、刹那その瞳を閉じる。
(お父様、お母様。どうか、見ていてください……私の愛するアーヴェント様と共に、全てのしがらみに決着をつけてみせます……!)
狼狽えるハンス達をアーヴェントとアナスタシアは真っすぐに見つめる。二人が携えた深紅の瞳、そして青と赤の瞳によってハンスやレイヴン達が行って来た悪事の全てが明らかになる時が来たのだ。