吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~
101 全ての罪が暴かれます(前編)
動揺を隠しきれないハンス、そしてレイヴン達に隙を与えることなくアーヴェントが口を開いた。
「昨晩、我がオースティン家が賊と思われる者達に襲撃を受けた」
その言葉にレイヴンは不自然に俯く。一方ハンスは動揺を隠せないようで目を泳がせていた。話の内容自体が理解出来ていないフレデリカ、クルエはただただ狼狽えるしかない。
(フレデリカや叔母様達には話が通じていない……つまり賊を差し向けたのは叔父様とハンス殿下ということね)
「そ、それがどうしたというのだ……?」
こちらを覗き込むようにレイヴンが尋ねる。しらを切るその様子にアーヴェントは不快感を示す。深紅の両の瞳に力が入る。
「賊達は皆、シェイド王国の騎士団へと身柄を渡してある。そしてその賊の頭と思われる人物から今回の襲撃の依頼をした人物の名前が判明している」
アーヴェントの背後からはシリウス王の視線が睨みを聞かせていた。レイヴンの肩が微かに動いたようにアナスタシアには見えていた。
「その者の名はレイヴン・ミューズ。お前のことだ」
「ふ、ふふ。オースティン公爵殿、お言葉を返すようだがどこぞの賊の言葉など鵜呑みにされては困りますな。そんなもの証拠になりますまい。外交官である私の立場を脅かそうとついた出まかせでしょうな」
「ほう……身に覚えがないと?」
「もちろんだ」
深紅の両の瞳はハンスに視線を向ける。目が泳いだままのハンスはアーヴェントと目を合わせることが出来ずにいた。
「ハンス殿下はどうでしょうか」
レイヴンはちらっとハンスの方を見る。怯えるようにハンスは口を開く。
「お、オレは何も知らないぞっ……」
先程大きな態度でこの王の間に入って来た時とはまるで別人のようだ。アナスタシアもその顔を見るのは初めてだった。
(ハンス殿下……隠しきれていないわ。叔父様からの圧力があるということね)
二人のその様子を見ていたシリウス王が大きなため息を漏らす。
「見苦しいな、レイヴン」
「へ、陛下……何を」
「私に仕える『影』達にお前の監視を頼んでいたのだ。お前がシェイド王国の者と連絡を取り合って来たことが私にも届いていたのだ。その者が賊の連絡役だろうな」
「なっ……?!」
余りにも以外な所から証拠が上がったことでレイヴンの顔色が変わる。一つの国の王の言葉だ。それをアーヴェントの時と同様にいなすことなど出来るはずもない。レイヴンは歯を思い切り噛みしめる。
「全てはアナスタシアを狙っての企てだということも俺達にはお見通しだ。賊ではなく、犯罪集団だということもな。賊に見せかけてオースティン家の者を根絶やしにし、アナスタシアだけを我が物としようとしたこと……断じて許すわけにはいかない」
(アーヴェント様……)
アーヴェントの言葉を聞きながらアナスタシアは胸にそっと手を添える。その刹那の間にレイヴンは自らの窮地を打開する方法を賢しく考えていたようだ。
「陛下! 『影』というのは王の間に代々伝わる、いわば迷信にも近い史実。その者達が姿を見せぬのに、それを証拠としてあげられるとは些か度が過ぎるのではないのですかな?!」
「レイヴン……貴様という奴はこの期に及んでもまだしらを切るというのか」
アーヴェントは黙ってシリウス王とレイヴンのやりとりを見守っていた。
(叔父様……陛下に何ていう物言いなのかしら……あまりに見苦しいわ)
「何を仰いますか、陛下っ! 第一、貴方は嫌疑がかけられた我が兄……ラスター公爵とその夫人達の不正を見て見ぬふりをしていたという疑いが掛けられ軟禁されているはずの身のはず!」
大きく手振りをしながらレイヴンが言葉をぶつける。
「そんな立場でありながら勝手にその拘束を解き、あまつさえ他国の者を城に無断で入場させるなど王のすることとは思えませんな!!」
さも自分が正当のように振舞っている。アナスタシアにはそれがとても滑稽に見えた。だが、場の空気は変わり始めていたのも事実。それを感じたハンスの口角が少し上がる。
「そ、そうですよ父上! 軟禁中の王が勝手に振舞うとは前代未聞です! 母上もそうは思わないのですかっ!?」
「ハンス……貴方という子は……」
「母上、ここで母子の情を出しても無駄です!」
レイヴンとハンスの後ろにいたフレデリカも場の空気が自分達に傾いてきたことを本能的に感じたのか笑みを浮かべる。クルエも同様だ。アーヴェントが両の瞳を閉じながら呟いた。
「なんと醜い光景だろうな……」
「ええ……私もそう思います」
そう呟いたアナスタシア達に気付いたレイヴンは視線を向けると指を刺しながら言葉をぶつけてきた。
「アナスタシア! お前もだ! よくも叔父であるこの私を陥れるような真似をしてくれたな! 陛下やその隣にいるおぞましい吸血鬼公爵と共にわからせるしかないな!」
「叔父様……」
「うるさい! ……陛下! 私はこれより外交官であり議会の一員でもある自身の権利を使い緊急の議会を開かせて頂きますぞ! 先程までの証拠と仰られていたモノに関しても、もう一度こちらで精査させて頂かなくてはいけませんな!」
くく、とレイヴンは勝ち誇った表情を浮かべる。自分の息がかかっている議員たちを使い、自らが有利な場を作り出そうとしていたのだ。ハンスも一安心したようで肩で大きく息をしていた。フレデリカもそっとハンスの腕を掴む。
「そうですわよね! お父様やハンス様達がそんな悪いことを企てるはずがないですものね!」
「そ、そうです! 議会にかけて頂ければ陛下が仰っていたことが事実無根であることが証明されるでしょうっ」
フレデリカはまだしも、妻であるクルエには思うところがあるらしくレイヴンがとった強気の行動によって自分も勢いを取り戻したようだ。
その時、王の間の扉が開かれる。
「残念ですが、議会は開かれることはありません」
開いた扉から正装に身を包んだリチャードが姿を現した。茶色を帯びた赤の髪と金色の瞳を携え、魔族としての特徴的な瞳孔と尖った耳を持つ青年がゆっくりとこちらに向かって歩いてきたのだ。
「昨晩、我がオースティン家が賊と思われる者達に襲撃を受けた」
その言葉にレイヴンは不自然に俯く。一方ハンスは動揺を隠せないようで目を泳がせていた。話の内容自体が理解出来ていないフレデリカ、クルエはただただ狼狽えるしかない。
(フレデリカや叔母様達には話が通じていない……つまり賊を差し向けたのは叔父様とハンス殿下ということね)
「そ、それがどうしたというのだ……?」
こちらを覗き込むようにレイヴンが尋ねる。しらを切るその様子にアーヴェントは不快感を示す。深紅の両の瞳に力が入る。
「賊達は皆、シェイド王国の騎士団へと身柄を渡してある。そしてその賊の頭と思われる人物から今回の襲撃の依頼をした人物の名前が判明している」
アーヴェントの背後からはシリウス王の視線が睨みを聞かせていた。レイヴンの肩が微かに動いたようにアナスタシアには見えていた。
「その者の名はレイヴン・ミューズ。お前のことだ」
「ふ、ふふ。オースティン公爵殿、お言葉を返すようだがどこぞの賊の言葉など鵜呑みにされては困りますな。そんなもの証拠になりますまい。外交官である私の立場を脅かそうとついた出まかせでしょうな」
「ほう……身に覚えがないと?」
「もちろんだ」
深紅の両の瞳はハンスに視線を向ける。目が泳いだままのハンスはアーヴェントと目を合わせることが出来ずにいた。
「ハンス殿下はどうでしょうか」
レイヴンはちらっとハンスの方を見る。怯えるようにハンスは口を開く。
「お、オレは何も知らないぞっ……」
先程大きな態度でこの王の間に入って来た時とはまるで別人のようだ。アナスタシアもその顔を見るのは初めてだった。
(ハンス殿下……隠しきれていないわ。叔父様からの圧力があるということね)
二人のその様子を見ていたシリウス王が大きなため息を漏らす。
「見苦しいな、レイヴン」
「へ、陛下……何を」
「私に仕える『影』達にお前の監視を頼んでいたのだ。お前がシェイド王国の者と連絡を取り合って来たことが私にも届いていたのだ。その者が賊の連絡役だろうな」
「なっ……?!」
余りにも以外な所から証拠が上がったことでレイヴンの顔色が変わる。一つの国の王の言葉だ。それをアーヴェントの時と同様にいなすことなど出来るはずもない。レイヴンは歯を思い切り噛みしめる。
「全てはアナスタシアを狙っての企てだということも俺達にはお見通しだ。賊ではなく、犯罪集団だということもな。賊に見せかけてオースティン家の者を根絶やしにし、アナスタシアだけを我が物としようとしたこと……断じて許すわけにはいかない」
(アーヴェント様……)
アーヴェントの言葉を聞きながらアナスタシアは胸にそっと手を添える。その刹那の間にレイヴンは自らの窮地を打開する方法を賢しく考えていたようだ。
「陛下! 『影』というのは王の間に代々伝わる、いわば迷信にも近い史実。その者達が姿を見せぬのに、それを証拠としてあげられるとは些か度が過ぎるのではないのですかな?!」
「レイヴン……貴様という奴はこの期に及んでもまだしらを切るというのか」
アーヴェントは黙ってシリウス王とレイヴンのやりとりを見守っていた。
(叔父様……陛下に何ていう物言いなのかしら……あまりに見苦しいわ)
「何を仰いますか、陛下っ! 第一、貴方は嫌疑がかけられた我が兄……ラスター公爵とその夫人達の不正を見て見ぬふりをしていたという疑いが掛けられ軟禁されているはずの身のはず!」
大きく手振りをしながらレイヴンが言葉をぶつける。
「そんな立場でありながら勝手にその拘束を解き、あまつさえ他国の者を城に無断で入場させるなど王のすることとは思えませんな!!」
さも自分が正当のように振舞っている。アナスタシアにはそれがとても滑稽に見えた。だが、場の空気は変わり始めていたのも事実。それを感じたハンスの口角が少し上がる。
「そ、そうですよ父上! 軟禁中の王が勝手に振舞うとは前代未聞です! 母上もそうは思わないのですかっ!?」
「ハンス……貴方という子は……」
「母上、ここで母子の情を出しても無駄です!」
レイヴンとハンスの後ろにいたフレデリカも場の空気が自分達に傾いてきたことを本能的に感じたのか笑みを浮かべる。クルエも同様だ。アーヴェントが両の瞳を閉じながら呟いた。
「なんと醜い光景だろうな……」
「ええ……私もそう思います」
そう呟いたアナスタシア達に気付いたレイヴンは視線を向けると指を刺しながら言葉をぶつけてきた。
「アナスタシア! お前もだ! よくも叔父であるこの私を陥れるような真似をしてくれたな! 陛下やその隣にいるおぞましい吸血鬼公爵と共にわからせるしかないな!」
「叔父様……」
「うるさい! ……陛下! 私はこれより外交官であり議会の一員でもある自身の権利を使い緊急の議会を開かせて頂きますぞ! 先程までの証拠と仰られていたモノに関しても、もう一度こちらで精査させて頂かなくてはいけませんな!」
くく、とレイヴンは勝ち誇った表情を浮かべる。自分の息がかかっている議員たちを使い、自らが有利な場を作り出そうとしていたのだ。ハンスも一安心したようで肩で大きく息をしていた。フレデリカもそっとハンスの腕を掴む。
「そうですわよね! お父様やハンス様達がそんな悪いことを企てるはずがないですものね!」
「そ、そうです! 議会にかけて頂ければ陛下が仰っていたことが事実無根であることが証明されるでしょうっ」
フレデリカはまだしも、妻であるクルエには思うところがあるらしくレイヴンがとった強気の行動によって自分も勢いを取り戻したようだ。
その時、王の間の扉が開かれる。
「残念ですが、議会は開かれることはありません」
開いた扉から正装に身を包んだリチャードが姿を現した。茶色を帯びた赤の髪と金色の瞳を携え、魔族としての特徴的な瞳孔と尖った耳を持つ青年がゆっくりとこちらに向かって歩いてきたのだ。