吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~
14 朝食のお誘いでドキドキです
次の日、部屋の中に明るい日が差し込む。アナスタシアの瞼が自然に開いた。固い木製の台に寝ていた昨日までとは違い、起きた時に背中が痛むこともなかった。相変わらず雲に包まれている感覚だ。
(こんなすっきりと目覚めたのはいつぶりだったかしら……)
ゆっくりと身体を起こす。今の自分の置かれた状況を確認するのもかねて、ぼーっと天蓋を見つめる。もうここは十六年間過ごしたミューズ家ではない。と、言ってもその内の後ろ五年はあの小屋で過ごした期間だったのだが。
「本当に……夢みたい」
窓から差し込む光を見つめながら小さく呟く。
コンコン―寝室の扉がノックされる。返事をするとラストが笑顔で扉を開けて入ってくる。ベッドの近くまでくると、両手を前で軽く重ねて一礼して挨拶の言葉を口にする。
「おはようございます、アナスタシア様」
「おはよう、ラスト」
静かに彼女が頷く。アナスタシアの顔色がいいことが目で見てわかったようで何より、という表情を浮かべていた。
「よく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで」
「それは良かったです」
そう返事をしたラストは身支度の準備を始める。アナスタシアもベッドから起き上がると軽く背伸びをして眠っていた身体を起こす。一連の行動、一つ一つが懐かしく感じる。
(昔は毎朝、メイがあの元気な声で起こしに来てくれていたわね……本当に懐かしく感じる)
「さ、御支度をしましょうかっ。ご主人様がお待ちですよ」
「アーヴェント様が?」
寝室に備えられている化粧台の前に腰かけたアナスタシアの髪の手入れをしながらラストが言葉を掛ける。
「はい。アナスタシア様がお目覚めであれば一緒の朝食にお誘いして欲しい、と仰せつかっております」
(アーヴェント様からの朝食のお誘い……)
昨日アーヴェントと初めて会った時のことを思い出す。同時に胸が熱くなる。少しの間が出来た為ラストがアナスタシアに声を掛けた。
「アナスタシア様、どうかなさいましたか?」
「ごめんなさい。誰かと朝食を一緒にとるんだって思ったら少し緊張してしまったの」
その言葉の意図を理解してくれたのか、ラストは優しく呟く。
「とびきり綺麗にしてご主人様を驚かせちゃいましょうね」
「ありがとう」
(きっと私が今までどんな生活をしていたかは、アーヴェント様達は既にご存じなのね。普通はどういうことか聞き返してくるはずだもの……)
身支度を済ませたアナスタシアはラストに案内されて食堂へと向かう。扉を開いてもらい中に入ると既にアーヴェントが席についていた。アナスタシアに気付くとゆっくりと立ち上がり、近づいて声を掛けてきた。
「昨日はよく眠れたか」
「はい」
「なら良かった。さあ、朝食にしよう」
アナスタシアの座る椅子をアーヴェントが静かに引いてくれた。一礼してその椅子に腰かけると向かい側の席に戻り腰かけたアーヴェントと目が合う。彼は優しく微笑んでくれた。その仕草にアナスタシアの心はときめく。
「お待たせいたしましたっ」
ラストや他の使用人達が朝食を運んでくる。彩り鮮やかな料理の数々がアナスタシアの前に並ぶ。昨日もそうだが、アナスタシアのテーブルマナーは完璧だった。本人にしてみれば数年ぶりだったのだろうがアーヴェント達から見れば元々の躾の良さが伺えていた。
「とっても美味しいです」
「それは良かった。どの料理の食材もオースティン家の領地内で採れた物なんだ」
(これだけ良質の食材が揃うなんて……領地内の管理もしっかりとされているのね)
それから朝食を終えた二人の前には飲み物が出され、それも口にする。するとアーヴェントがアナスタシアに話しかけてきた。
「実はこれから急な仕事が入ってしまったんだ。本当なら庭園を一緒に周りたかったのだが……」
アーヴェントは露骨に口惜しそうな表情を浮かべる。ラストはそれを見て口元に手をそっと当てていた。
「お仕事が忙しいのなら仕方ないです。どうぞ、そちらを優先してください」
アナスタシアがそう答えると、アーヴェントはバツが悪そうな表情を浮かべていた。
「庭園には好きな時に行って構わない。案内はラストに頼めばいい」
「ありがとうございます」
ちょうどその時、食堂の扉が開きゾルンが入ってくる。アーヴェントを呼びに来たのだろう。
「アーヴェント様、そろそろお時間です」
「わかった。今行く」
アーヴェントは椅子から立ち上がると、アナスタシアの近くまで歩いていく。彼女が見上げると軽く微笑みながらアーヴェントがそっとアナスタシアの右手をとり、甲に口づけする。
(……!)
「それじゃあ、行ってくる」
その行為に慣れていないアナスタシアは顔を赤くする。慌てて、言葉を返そうと口を開いた時だった。ある記憶が呼び覚まされる。
(あ……)
「っ……はい」
「……?」
「……!」
何かを言いかけたアナスタシアだったがふいに俯き、ただ静かに頷いた。その時のアーヴェントはアナスタシアのその反応を特に気にはしなかったが、ラストは何かに気付くのだった。
(こんなすっきりと目覚めたのはいつぶりだったかしら……)
ゆっくりと身体を起こす。今の自分の置かれた状況を確認するのもかねて、ぼーっと天蓋を見つめる。もうここは十六年間過ごしたミューズ家ではない。と、言ってもその内の後ろ五年はあの小屋で過ごした期間だったのだが。
「本当に……夢みたい」
窓から差し込む光を見つめながら小さく呟く。
コンコン―寝室の扉がノックされる。返事をするとラストが笑顔で扉を開けて入ってくる。ベッドの近くまでくると、両手を前で軽く重ねて一礼して挨拶の言葉を口にする。
「おはようございます、アナスタシア様」
「おはよう、ラスト」
静かに彼女が頷く。アナスタシアの顔色がいいことが目で見てわかったようで何より、という表情を浮かべていた。
「よく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで」
「それは良かったです」
そう返事をしたラストは身支度の準備を始める。アナスタシアもベッドから起き上がると軽く背伸びをして眠っていた身体を起こす。一連の行動、一つ一つが懐かしく感じる。
(昔は毎朝、メイがあの元気な声で起こしに来てくれていたわね……本当に懐かしく感じる)
「さ、御支度をしましょうかっ。ご主人様がお待ちですよ」
「アーヴェント様が?」
寝室に備えられている化粧台の前に腰かけたアナスタシアの髪の手入れをしながらラストが言葉を掛ける。
「はい。アナスタシア様がお目覚めであれば一緒の朝食にお誘いして欲しい、と仰せつかっております」
(アーヴェント様からの朝食のお誘い……)
昨日アーヴェントと初めて会った時のことを思い出す。同時に胸が熱くなる。少しの間が出来た為ラストがアナスタシアに声を掛けた。
「アナスタシア様、どうかなさいましたか?」
「ごめんなさい。誰かと朝食を一緒にとるんだって思ったら少し緊張してしまったの」
その言葉の意図を理解してくれたのか、ラストは優しく呟く。
「とびきり綺麗にしてご主人様を驚かせちゃいましょうね」
「ありがとう」
(きっと私が今までどんな生活をしていたかは、アーヴェント様達は既にご存じなのね。普通はどういうことか聞き返してくるはずだもの……)
身支度を済ませたアナスタシアはラストに案内されて食堂へと向かう。扉を開いてもらい中に入ると既にアーヴェントが席についていた。アナスタシアに気付くとゆっくりと立ち上がり、近づいて声を掛けてきた。
「昨日はよく眠れたか」
「はい」
「なら良かった。さあ、朝食にしよう」
アナスタシアの座る椅子をアーヴェントが静かに引いてくれた。一礼してその椅子に腰かけると向かい側の席に戻り腰かけたアーヴェントと目が合う。彼は優しく微笑んでくれた。その仕草にアナスタシアの心はときめく。
「お待たせいたしましたっ」
ラストや他の使用人達が朝食を運んでくる。彩り鮮やかな料理の数々がアナスタシアの前に並ぶ。昨日もそうだが、アナスタシアのテーブルマナーは完璧だった。本人にしてみれば数年ぶりだったのだろうがアーヴェント達から見れば元々の躾の良さが伺えていた。
「とっても美味しいです」
「それは良かった。どの料理の食材もオースティン家の領地内で採れた物なんだ」
(これだけ良質の食材が揃うなんて……領地内の管理もしっかりとされているのね)
それから朝食を終えた二人の前には飲み物が出され、それも口にする。するとアーヴェントがアナスタシアに話しかけてきた。
「実はこれから急な仕事が入ってしまったんだ。本当なら庭園を一緒に周りたかったのだが……」
アーヴェントは露骨に口惜しそうな表情を浮かべる。ラストはそれを見て口元に手をそっと当てていた。
「お仕事が忙しいのなら仕方ないです。どうぞ、そちらを優先してください」
アナスタシアがそう答えると、アーヴェントはバツが悪そうな表情を浮かべていた。
「庭園には好きな時に行って構わない。案内はラストに頼めばいい」
「ありがとうございます」
ちょうどその時、食堂の扉が開きゾルンが入ってくる。アーヴェントを呼びに来たのだろう。
「アーヴェント様、そろそろお時間です」
「わかった。今行く」
アーヴェントは椅子から立ち上がると、アナスタシアの近くまで歩いていく。彼女が見上げると軽く微笑みながらアーヴェントがそっとアナスタシアの右手をとり、甲に口づけする。
(……!)
「それじゃあ、行ってくる」
その行為に慣れていないアナスタシアは顔を赤くする。慌てて、言葉を返そうと口を開いた時だった。ある記憶が呼び覚まされる。
(あ……)
「っ……はい」
「……?」
「……!」
何かを言いかけたアナスタシアだったがふいに俯き、ただ静かに頷いた。その時のアーヴェントはアナスタシアのその反応を特に気にはしなかったが、ラストは何かに気付くのだった。