吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~
38 アルク王に謁見します
「父上からの呼び出しに応じ、オースティン公爵とその婚約者アナスタシア嬢をお連れした。扉を開けてくれ」
先頭を歩くライナーの言葉を受けた兵士達が一礼すると、玉座の間への扉が音を出して開かれる。続いて入室していくリズベットは一度アナスタシアの方を振り返ると笑顔を浮かべながら目で合図してくれた。では、いきましょうという意思表示だろう。隣に並ぶアーヴェントも同じように笑みを浮かべて頷く。
「では、行こうか。アナスタシア」
「はい。アーヴェント様」
緊張していたアナスタシアだが、アーヴェントの言葉を聞くと不思議と身体の力がいい具合に抜けていく。アーヴェントにエスコートされ、アナスタシアも玉座の間に足を踏み入れた。中程まで歩くと、玉座に座るシェイド国の王、アルクの姿が見えた。息子であるライナーと同じ黒みを帯びた赤色の髪と金色の瞳を携えていた。隣には王妃であるベガの姿もあった。こちらもリズベットと同様のストロベリー色の髪、そして金色の瞳を携えている。玉座の左右には各大臣達の姿もあり、皆アーヴェントとアナスタシアのことを静かに見つめていた。
「父上、オースティン公爵とアナスタシア嬢をお連れしました」
アルク王は頷くとアナスタシア達の方を見ながら口を開いた。ライナーとリズベットは静かに王と王妃の横に並ぶ。
「二人ともよく来てくれた。アーヴェントも久しいな」
「ご無沙汰しております、陛下。この度は謁見をお許し頂き、光栄です」
「なにこちらから呼び出したのだから礼は不要だ。頭を上げてくれ」
アーヴェントとアルク王は既に面識があるようで、会話も自然に行われていた。そしてアルク王の視線がアーヴェントの隣に並んでいたアナスタシアの方に向けられた。
「そなたがアナスタシア・ミューズなのだな」
アナスタシアは深い一礼とカーテシーを添えて挨拶の言葉を口にする。
「お初にお目にかかります、アルク・シェイド陛下。オースティン公爵の婚約者、アナスタシア・ミューズでございます」
丁寧なアナスタシアの挨拶を受けたアルク王が頷く。隣で見ていた王妃のベガも笑みを浮かべていた。アルク王はそれから少しの間、アナスタシアの顔を見つめる。その後、柔らかい表情を浮かべながら声を掛ける。
「……ラスターとルフレに似て、聡明でいて美麗な顔立ちをしているな。かつて聞いていた通り、青と赤の両の瞳もまた美しい」
(陛下もお父様とお母さまのことをご存じなのね……お父様達もこの玉座の間に足を運んでいたのかと思うと……とても嬉しい気持ちになる)
「お褒めに預かり、光栄です。陛下」
アナスタシアの言葉に頷くと、昔を懐かしむようにアルク王が語りだした。
「ラスターとルフレにはこのシェイド王国とリュミエール王国の為に、とても尽力してもらっていた。そのおかげで、今の両国の関係が築かれたと言っても過言ではない。本当に良い心を持った者達だった」
(陛下にここまで言って貰えるなんて……お父様とお母さまの娘としてとても光栄だわ)
そしてそこまで語ったアルク王は故人を儚むように哀しげな表情を浮かべた。
「そんな二人を失ったことはリュミエール王国でもつらいことだろうが、このシェイド王国でも大きな悲しみに暮れたものだ。アナスタシア、お前の両親はそれ程に立派な人物だったのだ。誇りに思ってくれ」
アルク王の言葉を聞いたアナスタシアの瞳には涙が浮かんでいた。
「陛下、そのお言葉を聞けて今は亡き両親も嬉しく思っていると思います」
そうか、とアルク王が頷く。アーヴェントがそっと取り出したハンカチでアナスタシアの目元に溢れた涙を拭いてくれた。アナスタシアにはその気遣いの心がとても嬉しかった。アナスタシアが微笑むと、アーヴェントもまた微笑み返してくれた。その様子をアルク王も満足げな表情で見つめていた。
「アーヴェントも素晴らしい婚約者を迎えたものだな。なあ、ベガ」
「そうですわね。二人ともとてもお似合いのように見受けましたわ」
ライナーとリズベットも静かに頷いていた。
「二人とも、我が息子と娘たちと末永い交流をしてもらえると嬉しく思う」
その言葉を聞いたアーヴェントとアナスタシアは深い礼を持って気持ちを伝えた。そこまでの会話を終えるとアルク王はライナーに声を掛ける。
「ライナー、二人にはこの城でゆっくりと過ごしてもらってくれ」
「はい。お任せください、父上」
「お父様、わたくしもちゃんと接待をいたしますわ」
「はは。わかっているとも。それではリズベットにも改めてお願いしよう」
おまかせあれ、とリズベットがカーテシーを添えて一礼してみせる。ベガもその様子を見て微笑んでいた。仲のいい様子を見てアナスタシアの心もほっこりとしていた。
「アーヴェント、アナスタシア。ゆっくりと過ごしてくれ」
「お心遣い、感謝いたします陛下」
アーヴェントの言葉に添えるようにアナスタシアも一礼してみせる。その後はライナーとリズベットに先導されて二人は玉座の間を後にした。貴賓室へと戻った四人はラストや城の使用人に迎えられると再び、席につき歓談の続きを始める。
(陛下とのお話はとても有意義なものだった……お父様達がとても信頼されていたことも知れて良かった……)
「アナスタシア、疲れてはいないか? 何かあればすぐに言ってくれ」
隣に座るアーヴェントがアナスタシアのことを気にかけて言葉を掛けてくれた。
(アーヴェント様も私のことを大切にしてくださっている。本当に私は幸せ者だわ)
「心配して頂いて、ありがとうございます」
「婚約者なのだから当たり前だろう」
「……はい」
二人が見つめ合い、そして微笑み合う。
「どこにいてもお熱い二人ですわね」
「ここまで執心しているアーヴェントを見られるのもアナスタシアのおかげだな」
「私もそう思いますわ」
その様子を見ていたリズベットやライナー、ラストが珍しい物を見られたと満足げな表情を浮かべていた。アーヴェントが咳払いすると、全員視線をふっと逸らすのだった。貴賓室に笑い声が起こる。歓談も一段落ついた時、リズベットが口を開く。
「そうですわ。アナスタシアには城の中庭も是非見て頂きたいですわね」
「ああ、それと会わせたい奴もいるんだが……今は勉強中か」
(会わせたいお方……一体どなたなのかしら……)
「お兄様、そんなことより中庭を案内するのが先ですわ」
「はは。わかったわかった。オレ達は少し二人で話をしているよ。ラスト、リズベットとアナスタシアのことを任せてもいいだろうか?」
「はい、お任せくださいませ」
「ラストが付いてきてくれるなら安心ですわね。それじゃ、アナスタシア。中庭へご案内致しますわね」
「リズベット様、ありがとうございます。それではアーヴェント様、行って参ります」
「ああ。楽しんでおいで」
アーヴェントに声をかけたアナスタシアはリズベットに手を引かれ貴賓室を後にする。ラストも二人の後をついていく。向かうのは城の中庭だ。
「もう少しで着きますわ。本当に素敵な中庭なんですのよ」
「とても楽しみです」
得意げに語るリズベットを見て、アナスタシアが微笑む。すっかり仲がよくなった二人をラストは柔らかい表情で見つめていた。長い廊下を進んでいくと、中庭へと辿りつく。一面に綺麗な花や草木が茂る中庭の光景が広がる。そんな場所に一人の青年の姿があった。魔族の特徴に加え茶色を帯びた赤の髪、そしてライナーやリズベットと同じ金色の瞳を携えていた。青年もリズベット達に気付いたようで、こちらを振り向く。
「あら、リチャード。お勉強はもうお済になりましたの?」
リズベットが気軽にその青年に声を掛ける。青年はこちらを見て微笑みながら口を開いた。
「ああ。ちょうど終わった所だよ。今は中庭を見て歩いていたんだ」
先頭を歩くライナーの言葉を受けた兵士達が一礼すると、玉座の間への扉が音を出して開かれる。続いて入室していくリズベットは一度アナスタシアの方を振り返ると笑顔を浮かべながら目で合図してくれた。では、いきましょうという意思表示だろう。隣に並ぶアーヴェントも同じように笑みを浮かべて頷く。
「では、行こうか。アナスタシア」
「はい。アーヴェント様」
緊張していたアナスタシアだが、アーヴェントの言葉を聞くと不思議と身体の力がいい具合に抜けていく。アーヴェントにエスコートされ、アナスタシアも玉座の間に足を踏み入れた。中程まで歩くと、玉座に座るシェイド国の王、アルクの姿が見えた。息子であるライナーと同じ黒みを帯びた赤色の髪と金色の瞳を携えていた。隣には王妃であるベガの姿もあった。こちらもリズベットと同様のストロベリー色の髪、そして金色の瞳を携えている。玉座の左右には各大臣達の姿もあり、皆アーヴェントとアナスタシアのことを静かに見つめていた。
「父上、オースティン公爵とアナスタシア嬢をお連れしました」
アルク王は頷くとアナスタシア達の方を見ながら口を開いた。ライナーとリズベットは静かに王と王妃の横に並ぶ。
「二人ともよく来てくれた。アーヴェントも久しいな」
「ご無沙汰しております、陛下。この度は謁見をお許し頂き、光栄です」
「なにこちらから呼び出したのだから礼は不要だ。頭を上げてくれ」
アーヴェントとアルク王は既に面識があるようで、会話も自然に行われていた。そしてアルク王の視線がアーヴェントの隣に並んでいたアナスタシアの方に向けられた。
「そなたがアナスタシア・ミューズなのだな」
アナスタシアは深い一礼とカーテシーを添えて挨拶の言葉を口にする。
「お初にお目にかかります、アルク・シェイド陛下。オースティン公爵の婚約者、アナスタシア・ミューズでございます」
丁寧なアナスタシアの挨拶を受けたアルク王が頷く。隣で見ていた王妃のベガも笑みを浮かべていた。アルク王はそれから少しの間、アナスタシアの顔を見つめる。その後、柔らかい表情を浮かべながら声を掛ける。
「……ラスターとルフレに似て、聡明でいて美麗な顔立ちをしているな。かつて聞いていた通り、青と赤の両の瞳もまた美しい」
(陛下もお父様とお母さまのことをご存じなのね……お父様達もこの玉座の間に足を運んでいたのかと思うと……とても嬉しい気持ちになる)
「お褒めに預かり、光栄です。陛下」
アナスタシアの言葉に頷くと、昔を懐かしむようにアルク王が語りだした。
「ラスターとルフレにはこのシェイド王国とリュミエール王国の為に、とても尽力してもらっていた。そのおかげで、今の両国の関係が築かれたと言っても過言ではない。本当に良い心を持った者達だった」
(陛下にここまで言って貰えるなんて……お父様とお母さまの娘としてとても光栄だわ)
そしてそこまで語ったアルク王は故人を儚むように哀しげな表情を浮かべた。
「そんな二人を失ったことはリュミエール王国でもつらいことだろうが、このシェイド王国でも大きな悲しみに暮れたものだ。アナスタシア、お前の両親はそれ程に立派な人物だったのだ。誇りに思ってくれ」
アルク王の言葉を聞いたアナスタシアの瞳には涙が浮かんでいた。
「陛下、そのお言葉を聞けて今は亡き両親も嬉しく思っていると思います」
そうか、とアルク王が頷く。アーヴェントがそっと取り出したハンカチでアナスタシアの目元に溢れた涙を拭いてくれた。アナスタシアにはその気遣いの心がとても嬉しかった。アナスタシアが微笑むと、アーヴェントもまた微笑み返してくれた。その様子をアルク王も満足げな表情で見つめていた。
「アーヴェントも素晴らしい婚約者を迎えたものだな。なあ、ベガ」
「そうですわね。二人ともとてもお似合いのように見受けましたわ」
ライナーとリズベットも静かに頷いていた。
「二人とも、我が息子と娘たちと末永い交流をしてもらえると嬉しく思う」
その言葉を聞いたアーヴェントとアナスタシアは深い礼を持って気持ちを伝えた。そこまでの会話を終えるとアルク王はライナーに声を掛ける。
「ライナー、二人にはこの城でゆっくりと過ごしてもらってくれ」
「はい。お任せください、父上」
「お父様、わたくしもちゃんと接待をいたしますわ」
「はは。わかっているとも。それではリズベットにも改めてお願いしよう」
おまかせあれ、とリズベットがカーテシーを添えて一礼してみせる。ベガもその様子を見て微笑んでいた。仲のいい様子を見てアナスタシアの心もほっこりとしていた。
「アーヴェント、アナスタシア。ゆっくりと過ごしてくれ」
「お心遣い、感謝いたします陛下」
アーヴェントの言葉に添えるようにアナスタシアも一礼してみせる。その後はライナーとリズベットに先導されて二人は玉座の間を後にした。貴賓室へと戻った四人はラストや城の使用人に迎えられると再び、席につき歓談の続きを始める。
(陛下とのお話はとても有意義なものだった……お父様達がとても信頼されていたことも知れて良かった……)
「アナスタシア、疲れてはいないか? 何かあればすぐに言ってくれ」
隣に座るアーヴェントがアナスタシアのことを気にかけて言葉を掛けてくれた。
(アーヴェント様も私のことを大切にしてくださっている。本当に私は幸せ者だわ)
「心配して頂いて、ありがとうございます」
「婚約者なのだから当たり前だろう」
「……はい」
二人が見つめ合い、そして微笑み合う。
「どこにいてもお熱い二人ですわね」
「ここまで執心しているアーヴェントを見られるのもアナスタシアのおかげだな」
「私もそう思いますわ」
その様子を見ていたリズベットやライナー、ラストが珍しい物を見られたと満足げな表情を浮かべていた。アーヴェントが咳払いすると、全員視線をふっと逸らすのだった。貴賓室に笑い声が起こる。歓談も一段落ついた時、リズベットが口を開く。
「そうですわ。アナスタシアには城の中庭も是非見て頂きたいですわね」
「ああ、それと会わせたい奴もいるんだが……今は勉強中か」
(会わせたいお方……一体どなたなのかしら……)
「お兄様、そんなことより中庭を案内するのが先ですわ」
「はは。わかったわかった。オレ達は少し二人で話をしているよ。ラスト、リズベットとアナスタシアのことを任せてもいいだろうか?」
「はい、お任せくださいませ」
「ラストが付いてきてくれるなら安心ですわね。それじゃ、アナスタシア。中庭へご案内致しますわね」
「リズベット様、ありがとうございます。それではアーヴェント様、行って参ります」
「ああ。楽しんでおいで」
アーヴェントに声をかけたアナスタシアはリズベットに手を引かれ貴賓室を後にする。ラストも二人の後をついていく。向かうのは城の中庭だ。
「もう少しで着きますわ。本当に素敵な中庭なんですのよ」
「とても楽しみです」
得意げに語るリズベットを見て、アナスタシアが微笑む。すっかり仲がよくなった二人をラストは柔らかい表情で見つめていた。長い廊下を進んでいくと、中庭へと辿りつく。一面に綺麗な花や草木が茂る中庭の光景が広がる。そんな場所に一人の青年の姿があった。魔族の特徴に加え茶色を帯びた赤の髪、そしてライナーやリズベットと同じ金色の瞳を携えていた。青年もリズベット達に気付いたようで、こちらを振り向く。
「あら、リチャード。お勉強はもうお済になりましたの?」
リズベットが気軽にその青年に声を掛ける。青年はこちらを見て微笑みながら口を開いた。
「ああ。ちょうど終わった所だよ。今は中庭を見て歩いていたんだ」