吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~
39 どこかでお会いしましたか
爽やかな声でリチャードと呼ばれている青年がリズベットに答える。見た目からだが年齢はアーヴェントやライナーよりも若いようにアナスタシアの両の目には映っていた。
(とても誠実そうな方……でも……何か……)
「リチャード、ちょうどお兄様が貴方のことを紹介したいと言っていましたのよ」
「ライナーが? ということは、こちらのご令嬢がそうなんだね」
リズベットとも仲が良いようで、二人の方に笑顔を浮かべながら歩いてくる。リズベットの隣に並ぶと、彼女から正式に紹介された。
「アナスタシア、紹介致しますわ。彼はリチャード。王家の縁者で今はわたくし達と一緒にお城で暮らしているのよ。勉強熱心で、剣の腕も騎士並みにお強いですわ」
「褒めすぎだよ、リズベット。ただの本の虫で、剣も趣味で振っているだけなんだから」
「ふふ、相変わらずご謙遜な心持ちですわね。まあ、そこがリチャードの良いところでもありますけど」
リズベットの言う通り、腰には鞘に収められた剣を携えていた。騎士というよりも剣士という言葉が似あう風体だ。所作も王家の縁者ということで、しっかりとしている。爽やかな笑みを浮かべるとアナスタシアに一礼する。今度アナスタシアがカーテシーと共に、名乗る。
「お初にお目にかかります、リチャード様。アナスタシア・ミューズと申します」
「とても素敵な自己紹介ありがとう、アナスタシア。キミがアーヴェントの婚約者なんだね。よろしく。でも、ボクは王子でも王女でもないから様づけはいらないよ。リチャードと呼んでくれて構わない」
話しぶりからアーヴェントとも面識があることがわかる。それよりもアナスタシアは先ほどからずっと心の内で思っていたことがあった。
(何か……懐かしいような感覚が……)
「どうかしたかい、アナスタシア」
ジッと見つめてしまっていたのだろう。リチャードがアナスタシアに声を掛ける。ハッと我に返ったアナスタシアが思い切って言葉を口にする。
「あの、リチャード……私達、何処かでお会いしたことがありませんか?」
その言葉を聞いて、リチャードが眼を瞬かせる。すると微笑みながら返事をする。
「そう言ってもらえると光栄だね。でも、こんなに素敵なご令嬢と面識があったらアーヴェントに睨まれそうだ。ボクとアナスタシアは初対面だよ」
「そ、そうよね。ごめんなさい。私、変なことを言ってしまって……」
(私ったら突然失礼なことを言ってしまったわ……リチャードの気を悪くしていなければいいのだけれど……)
「気にしなくていいよ、アナスタシア。これから良い友人として宜しくお願いするよ」
「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」
(良かった……)
二人のやりとりを微笑ましい表情で見ていたリズベットが頃合いを見て、話し始める。
「リチャード、アナスタシアにはこの中庭を見て頂きたくてご案内しましたの。宜しければご一緒に中庭を見て周りませんか?」
「それは素敵なお誘いだね。ありがとう、リズベット。アナスタシアがよければボクもご一緒してもいいかな?」
柔らかい表情を浮かべながらリチャードが答える。アナスタシアも初対面ではあるが、リチャードの印象はとても良いものだったのでリズベットの提案はとても素敵なものだと思っていた。
「ええ。私も三人で中庭を見て周りたいと思います。宜しくお願いします、リチャード」
互いに礼をしてみせる。うんうん、とリズベットが満足げに頷いていた。こうして三人で城の中庭を見て周ることになった。案内は基本的にはリズベットが率先してアナスタシアをリードしてくれた。リチャードはその中で、リズベットがあまり詳しくない花や草木について補足をしてくれていた。その中でアナスタシアはリチャードの誠実さを感じていた。
「リチャードはお庭に興味があるの?」
最初に会った時もリズベットに庭を見にきたと言っていたのを思い出したアナスタシアが話題を振る。単にリチャードに興味を持った、というのもある。異性という意味ではなく、よき友人としてだ。リチャードの方も、アナスタシアがアーヴェントの婚約者ということを理解した上での所作や気配りをしてくれているのが見て取れた。
「そうだね。花や草木は心を落ち着かせてくれるから勉学の合間に、散策させてもらっているよ」
「お勉強をしているの?」
「ああ、王家の縁者としてお城で色々なことを学ばせてもらっているんだ。将来、王家のために働くこともあるだろうからね」
(将来のことを考えて勉強をしているなんて、リチャードはとても聡明なのね)
「今ではわたくしよりも知識が多くて妬いてしまいますわ」
「リズベット、勘弁してくれよ」
「ふふ、冗談ですわ」
リズベットとリチャードのやりとりを見て、アナスタシアも一緒に微笑んでいた。良い雰囲気で三人は中庭を進んでいく。しばらくすると、庭園の入り口へと戻って来た。中庭はとても広く見えたが、三人で楽しく見て周るとあっという間だった。アナスタシアも満足感で溢れていた。
(楽しくて、本当にあっという間だったわ……リズベット様もリチャードも本当に優しくて安心して中庭を見て周れた)
「アナスタシア、満足して頂けましたかしら?」
「何かまだわからないことがあったら、聞いてくれて構わないよ」
「二人ともありがとうございます。とっても有意義な散策でした」
中庭にいこうと提案してくれたリズベットも満足げな表情を浮かべていた。自分が好きな中庭をアナスタシアも気にいってくれたことが嬉しいのだろう。リチャードも優しい表情を浮かべていた。
「それはよかったですわ。それじゃ、お兄様達の所に戻りましょうか。リチャードも勉強が終わったのならご一緒にいかが?」
「お邪魔じゃないかな?」
気を使ってくれているのが分かるような仕草をリチャードが見せる。だがリズベットは気にしていないようで、言葉を続ける。
「そんなことありませんわ。きっとアーヴェント様も久しぶりにリチャードとお話したいと思いますし」
「そうだね。それじゃ、挨拶も兼ねて顔を出そうかな」
「アナスタシアもそれで宜しいかしら?」
「はい。それで構いません」
うんうん、とリズベットは嬉しそうに頷く。善は急げといわんばかりにアナスタシアとリチャードを先導して歩き出す。
「ほら、二人とも行きますわよ」
振り返って明るい笑顔を浮かべるリズベットにリチャードとアナスタシアが続いて歩いていく。貴賓室に戻ると、ライナーとアーヴェントの話も一段落ついたようだった。椅子に掛けながら楽しそうな表情を浮かべていたアナスタシアにアーヴェントが声を掛ける。
「中庭の散策は楽しかったか?」
「はい。とても素敵な中庭でした」
「それは良かった」
安堵した表情をアーヴェントが浮かべる。アナスタシアのことを心配していたのが伝わってくる。アナスタシアはその気持ちがとても嬉しかった。
(心配してくださっていたのね……そのお気持ちがとても嬉しい)
その様子を見ていたリチャードがアーヴェントに声を掛けた。
「久しぶりだね、アーヴェント。この度は婚約おめでとう」
「ああ、リチャード。ありがとう」
そう言葉を交わした後、リチャードはライナー側の椅子に腰を下ろす。和気あいあいとした雰囲気でお茶会が再び始まる。友人が増えたことでアナスタシアも終始楽し気に話をしていた。隣でそんな彼女の様子をみていたアーヴェントもまた嬉しさで表情が緩んでいたのだった。
(とても誠実そうな方……でも……何か……)
「リチャード、ちょうどお兄様が貴方のことを紹介したいと言っていましたのよ」
「ライナーが? ということは、こちらのご令嬢がそうなんだね」
リズベットとも仲が良いようで、二人の方に笑顔を浮かべながら歩いてくる。リズベットの隣に並ぶと、彼女から正式に紹介された。
「アナスタシア、紹介致しますわ。彼はリチャード。王家の縁者で今はわたくし達と一緒にお城で暮らしているのよ。勉強熱心で、剣の腕も騎士並みにお強いですわ」
「褒めすぎだよ、リズベット。ただの本の虫で、剣も趣味で振っているだけなんだから」
「ふふ、相変わらずご謙遜な心持ちですわね。まあ、そこがリチャードの良いところでもありますけど」
リズベットの言う通り、腰には鞘に収められた剣を携えていた。騎士というよりも剣士という言葉が似あう風体だ。所作も王家の縁者ということで、しっかりとしている。爽やかな笑みを浮かべるとアナスタシアに一礼する。今度アナスタシアがカーテシーと共に、名乗る。
「お初にお目にかかります、リチャード様。アナスタシア・ミューズと申します」
「とても素敵な自己紹介ありがとう、アナスタシア。キミがアーヴェントの婚約者なんだね。よろしく。でも、ボクは王子でも王女でもないから様づけはいらないよ。リチャードと呼んでくれて構わない」
話しぶりからアーヴェントとも面識があることがわかる。それよりもアナスタシアは先ほどからずっと心の内で思っていたことがあった。
(何か……懐かしいような感覚が……)
「どうかしたかい、アナスタシア」
ジッと見つめてしまっていたのだろう。リチャードがアナスタシアに声を掛ける。ハッと我に返ったアナスタシアが思い切って言葉を口にする。
「あの、リチャード……私達、何処かでお会いしたことがありませんか?」
その言葉を聞いて、リチャードが眼を瞬かせる。すると微笑みながら返事をする。
「そう言ってもらえると光栄だね。でも、こんなに素敵なご令嬢と面識があったらアーヴェントに睨まれそうだ。ボクとアナスタシアは初対面だよ」
「そ、そうよね。ごめんなさい。私、変なことを言ってしまって……」
(私ったら突然失礼なことを言ってしまったわ……リチャードの気を悪くしていなければいいのだけれど……)
「気にしなくていいよ、アナスタシア。これから良い友人として宜しくお願いするよ」
「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」
(良かった……)
二人のやりとりを微笑ましい表情で見ていたリズベットが頃合いを見て、話し始める。
「リチャード、アナスタシアにはこの中庭を見て頂きたくてご案内しましたの。宜しければご一緒に中庭を見て周りませんか?」
「それは素敵なお誘いだね。ありがとう、リズベット。アナスタシアがよければボクもご一緒してもいいかな?」
柔らかい表情を浮かべながらリチャードが答える。アナスタシアも初対面ではあるが、リチャードの印象はとても良いものだったのでリズベットの提案はとても素敵なものだと思っていた。
「ええ。私も三人で中庭を見て周りたいと思います。宜しくお願いします、リチャード」
互いに礼をしてみせる。うんうん、とリズベットが満足げに頷いていた。こうして三人で城の中庭を見て周ることになった。案内は基本的にはリズベットが率先してアナスタシアをリードしてくれた。リチャードはその中で、リズベットがあまり詳しくない花や草木について補足をしてくれていた。その中でアナスタシアはリチャードの誠実さを感じていた。
「リチャードはお庭に興味があるの?」
最初に会った時もリズベットに庭を見にきたと言っていたのを思い出したアナスタシアが話題を振る。単にリチャードに興味を持った、というのもある。異性という意味ではなく、よき友人としてだ。リチャードの方も、アナスタシアがアーヴェントの婚約者ということを理解した上での所作や気配りをしてくれているのが見て取れた。
「そうだね。花や草木は心を落ち着かせてくれるから勉学の合間に、散策させてもらっているよ」
「お勉強をしているの?」
「ああ、王家の縁者としてお城で色々なことを学ばせてもらっているんだ。将来、王家のために働くこともあるだろうからね」
(将来のことを考えて勉強をしているなんて、リチャードはとても聡明なのね)
「今ではわたくしよりも知識が多くて妬いてしまいますわ」
「リズベット、勘弁してくれよ」
「ふふ、冗談ですわ」
リズベットとリチャードのやりとりを見て、アナスタシアも一緒に微笑んでいた。良い雰囲気で三人は中庭を進んでいく。しばらくすると、庭園の入り口へと戻って来た。中庭はとても広く見えたが、三人で楽しく見て周るとあっという間だった。アナスタシアも満足感で溢れていた。
(楽しくて、本当にあっという間だったわ……リズベット様もリチャードも本当に優しくて安心して中庭を見て周れた)
「アナスタシア、満足して頂けましたかしら?」
「何かまだわからないことがあったら、聞いてくれて構わないよ」
「二人ともありがとうございます。とっても有意義な散策でした」
中庭にいこうと提案してくれたリズベットも満足げな表情を浮かべていた。自分が好きな中庭をアナスタシアも気にいってくれたことが嬉しいのだろう。リチャードも優しい表情を浮かべていた。
「それはよかったですわ。それじゃ、お兄様達の所に戻りましょうか。リチャードも勉強が終わったのならご一緒にいかが?」
「お邪魔じゃないかな?」
気を使ってくれているのが分かるような仕草をリチャードが見せる。だがリズベットは気にしていないようで、言葉を続ける。
「そんなことありませんわ。きっとアーヴェント様も久しぶりにリチャードとお話したいと思いますし」
「そうだね。それじゃ、挨拶も兼ねて顔を出そうかな」
「アナスタシアもそれで宜しいかしら?」
「はい。それで構いません」
うんうん、とリズベットは嬉しそうに頷く。善は急げといわんばかりにアナスタシアとリチャードを先導して歩き出す。
「ほら、二人とも行きますわよ」
振り返って明るい笑顔を浮かべるリズベットにリチャードとアナスタシアが続いて歩いていく。貴賓室に戻ると、ライナーとアーヴェントの話も一段落ついたようだった。椅子に掛けながら楽しそうな表情を浮かべていたアナスタシアにアーヴェントが声を掛ける。
「中庭の散策は楽しかったか?」
「はい。とても素敵な中庭でした」
「それは良かった」
安堵した表情をアーヴェントが浮かべる。アナスタシアのことを心配していたのが伝わってくる。アナスタシアはその気持ちがとても嬉しかった。
(心配してくださっていたのね……そのお気持ちがとても嬉しい)
その様子を見ていたリチャードがアーヴェントに声を掛けた。
「久しぶりだね、アーヴェント。この度は婚約おめでとう」
「ああ、リチャード。ありがとう」
そう言葉を交わした後、リチャードはライナー側の椅子に腰を下ろす。和気あいあいとした雰囲気でお茶会が再び始まる。友人が増えたことでアナスタシアも終始楽し気に話をしていた。隣でそんな彼女の様子をみていたアーヴェントもまた嬉しさで表情が緩んでいたのだった。