吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ～婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます～
５０ 素敵な一日の締めくくりは王都のお話です
庭園でのデートを満喫したアーヴェントとアナスタシアは、お茶の時間も二人で楽しく過ごした。
（アーヴェント様と庭園でデートをして、一緒にお茶をして……本当に私は幸せ者ね）
お茶も終わりを迎えた頃、アーヴェントからアナスタシアに声が掛けられる。
「アナスタシア、よければ夕食も一緒にどうだろうか？」
アーヴェントからの夕食の誘いだった。思えば今日は午前中からアーヴェントの仕事を一緒に手伝い、昼食も別邸で共にしていた。それから庭園でのデート、そして今はお茶が済んだところだ。そこからの夕食の誘いだ。一日のほとんどをアーヴェントと一緒に過ごせることにアナスタシアはこれ以上ない幸せを感じていた。
（夕食のお誘いもして頂けるなんて、とても嬉しい……一日中、アーヴェント様とご一緒出来るなんて……夢を見ているみたい）
「はい……是非ご一緒させてください」
「ああ、楽しみにしているよ」
微笑み合う二人を見守っていたラストが明るく、アナスタシアの両肩に手を当てながら言葉を口にする。二人のやりとりを見てうずうずしていたようだ。
「それでしたら、アナスタシア様はお召し替えと一緒にお風呂にも入りましょうっ」
「え？ えっと……ラスト？」
「ちょうど先ほどアルガンから新しくブレンドした香油を頂いたので、早速使ってみましょうっ。ねっ。」
戸惑うアナスタシアにラストがこれでもかと笑顔で圧をかける。アーヴェントに助けてもらおうとそちらに目を向けると満更でもない表情をアーヴェントは浮かべていた。
「更に綺麗になったアナスタシアと夕食か……とても楽しみだな」
（アーヴェント様……？！）
「ほら、アーヴェント様も今よりお綺麗になったアナスタシア様と夕食をご一緒したいと申されてますよっ」
（アーヴェント様がそう仰るのなら……）
アナスタシアの脳内の天秤はアーヴェントの喜ぶ姿を想像すると容易くそちらに振れた。照れながら、上目遣いでアナスタシアがラストに声を掛ける。
「ラスト……宜しくお願いするわ」
そんなアナスタシアの表情を見て、興奮したようにラストが胸の前で両手を合わせながら喜んでいた。
「それじゃ、参りましょう！」
とんとん拍子で話は進み、アーヴェントはラストに連れていかれるアナスタシアを笑顔で見送るのだった。
場所は変わり、ラストに促されるままにアナスタシアは肩まで湯に使っていた。既にお風呂の準備はされていたらしく、待つこともなく入浴できた。傍らではとても楽しそうにラストが色々な手入れの準備をしてくれていた。一息つきながらアナスタシアは顔の半分下まで湯に浸かりながら物思いにふける。
（そういえば……お屋敷に来てもうだいぶ経つのね。今までの生活から比べたら夢のような日々を送らせてもらっている……ラスト達も本当によくしてくれているし……何よりも……）
ふと笑顔を浮かべながら両の深紅の瞳で自分を見つめるアーヴェントの姿が思い浮かぶ。
（あの方との出会いが私にとって一番の幸せ……）
お湯のせいもあるが、アナスタシアの顔が熱を帯びたのは言うまでもない。そんな時、ふとあることを思い出す。それはミューズ家にゾルンとフェオルが迎えに来てくれた時のことだ。
王命ではミューズ家の娘を嫁がせるという内容だったためにゾルン達、ひいてはアーヴェントは自分ではなくフレデリカのことを望んでいるのではとアナスタシアはあの時考えていた。だがゾルンはこう告げていた。
―私どもがお迎えに上がったのは間違いなく、アナスタシア様。貴方様です。私どもの主人が縁談の相手に望んでおりますのも貴方様で間違いありません―
浮かぶ泡のようにアナスタシアの心の片隅に疑問が浮かんでいた。
（あれ……？ そういえば、どうしてアーヴェント様達は……）
そんなことを考え始めた時、ふいにラストの声が聞こえてきた。
「アナスタシア様、そんなにお湯に浸かってらっしゃると湯あたりを起こしてしまいますよ？」
はっと我に返ったアナスタシアが浸かっていた顔を勢いよく湯から出す。横を向くと心配そうにこちらを覗いているラストの姿が見えた。
「ごめんなさい、ラスト。ちょっと考えごとをしていたの」
そうでしたか、とラストは安心した表情を浮かべる。その後はアルガンから貰ったという香油などで髪と身体の手入れを優しく施してもらった。とてもいい香りに包まれてアナスタシアも満足げな表情をしていた。それから新しいドレスに着替えさせてもらう。時間も程よく経過しており、アナスタシアはラストに手を引かれてアーヴェントの待つ食堂へと向かう。
食堂の扉をラストが開けると、アーヴェントが優しい表情で迎えてくれた。そんなアーヴェントに椅子を引いてもらいアナスタシアは席につく。アーヴェントも席につくと夕食の料理が食卓に並ぶ。頃合いを見て、アーヴェントが声を掛ける。
「さっきケネスから手紙が届いたんだ。先日頼んでいた装飾品の試作品が出来上がったそうだ。アナスタシアさえよければ、王都に一緒に行って試着をしてみてはということだったのだが……」
アーヴェントによると王都にもオースティン家が所有する別邸があるとのことで、王都に数日間滞在して用事を済ませようかという提案だった。
（以前遠目で見た時、とても賑やかで栄えている印象を受けたのよね……その王都をアーヴェント様と一緒に周れる……行ってみたい……）
「ご一緒したいですっ」
青と赤、両の瞳をキラキラさせながらアナスタシアはアーヴェントに王都に行くことを願い出る。アーヴェントも同じ気持ちだったようで、快く了承してくれた。
「そうか。なら、一緒に行こう。明日から準備をしなくてはな」
「はいっ」
こうして、二人は王都へと赴くことになった。それから数日間、アナスタシアは期待を胸に準備に勤しむ。一方アーヴェントはゾルンに仕事の引継ぎなどを行うのだった。
（アーヴェント様と庭園でデートをして、一緒にお茶をして……本当に私は幸せ者ね）
お茶も終わりを迎えた頃、アーヴェントからアナスタシアに声が掛けられる。
「アナスタシア、よければ夕食も一緒にどうだろうか？」
アーヴェントからの夕食の誘いだった。思えば今日は午前中からアーヴェントの仕事を一緒に手伝い、昼食も別邸で共にしていた。それから庭園でのデート、そして今はお茶が済んだところだ。そこからの夕食の誘いだ。一日のほとんどをアーヴェントと一緒に過ごせることにアナスタシアはこれ以上ない幸せを感じていた。
（夕食のお誘いもして頂けるなんて、とても嬉しい……一日中、アーヴェント様とご一緒出来るなんて……夢を見ているみたい）
「はい……是非ご一緒させてください」
「ああ、楽しみにしているよ」
微笑み合う二人を見守っていたラストが明るく、アナスタシアの両肩に手を当てながら言葉を口にする。二人のやりとりを見てうずうずしていたようだ。
「それでしたら、アナスタシア様はお召し替えと一緒にお風呂にも入りましょうっ」
「え？ えっと……ラスト？」
「ちょうど先ほどアルガンから新しくブレンドした香油を頂いたので、早速使ってみましょうっ。ねっ。」
戸惑うアナスタシアにラストがこれでもかと笑顔で圧をかける。アーヴェントに助けてもらおうとそちらに目を向けると満更でもない表情をアーヴェントは浮かべていた。
「更に綺麗になったアナスタシアと夕食か……とても楽しみだな」
（アーヴェント様……？！）
「ほら、アーヴェント様も今よりお綺麗になったアナスタシア様と夕食をご一緒したいと申されてますよっ」
（アーヴェント様がそう仰るのなら……）
アナスタシアの脳内の天秤はアーヴェントの喜ぶ姿を想像すると容易くそちらに振れた。照れながら、上目遣いでアナスタシアがラストに声を掛ける。
「ラスト……宜しくお願いするわ」
そんなアナスタシアの表情を見て、興奮したようにラストが胸の前で両手を合わせながら喜んでいた。
「それじゃ、参りましょう！」
とんとん拍子で話は進み、アーヴェントはラストに連れていかれるアナスタシアを笑顔で見送るのだった。
場所は変わり、ラストに促されるままにアナスタシアは肩まで湯に使っていた。既にお風呂の準備はされていたらしく、待つこともなく入浴できた。傍らではとても楽しそうにラストが色々な手入れの準備をしてくれていた。一息つきながらアナスタシアは顔の半分下まで湯に浸かりながら物思いにふける。
（そういえば……お屋敷に来てもうだいぶ経つのね。今までの生活から比べたら夢のような日々を送らせてもらっている……ラスト達も本当によくしてくれているし……何よりも……）
ふと笑顔を浮かべながら両の深紅の瞳で自分を見つめるアーヴェントの姿が思い浮かぶ。
（あの方との出会いが私にとって一番の幸せ……）
お湯のせいもあるが、アナスタシアの顔が熱を帯びたのは言うまでもない。そんな時、ふとあることを思い出す。それはミューズ家にゾルンとフェオルが迎えに来てくれた時のことだ。
王命ではミューズ家の娘を嫁がせるという内容だったためにゾルン達、ひいてはアーヴェントは自分ではなくフレデリカのことを望んでいるのではとアナスタシアはあの時考えていた。だがゾルンはこう告げていた。
―私どもがお迎えに上がったのは間違いなく、アナスタシア様。貴方様です。私どもの主人が縁談の相手に望んでおりますのも貴方様で間違いありません―
浮かぶ泡のようにアナスタシアの心の片隅に疑問が浮かんでいた。
（あれ……？ そういえば、どうしてアーヴェント様達は……）
そんなことを考え始めた時、ふいにラストの声が聞こえてきた。
「アナスタシア様、そんなにお湯に浸かってらっしゃると湯あたりを起こしてしまいますよ？」
はっと我に返ったアナスタシアが浸かっていた顔を勢いよく湯から出す。横を向くと心配そうにこちらを覗いているラストの姿が見えた。
「ごめんなさい、ラスト。ちょっと考えごとをしていたの」
そうでしたか、とラストは安心した表情を浮かべる。その後はアルガンから貰ったという香油などで髪と身体の手入れを優しく施してもらった。とてもいい香りに包まれてアナスタシアも満足げな表情をしていた。それから新しいドレスに着替えさせてもらう。時間も程よく経過しており、アナスタシアはラストに手を引かれてアーヴェントの待つ食堂へと向かう。
食堂の扉をラストが開けると、アーヴェントが優しい表情で迎えてくれた。そんなアーヴェントに椅子を引いてもらいアナスタシアは席につく。アーヴェントも席につくと夕食の料理が食卓に並ぶ。頃合いを見て、アーヴェントが声を掛ける。
「さっきケネスから手紙が届いたんだ。先日頼んでいた装飾品の試作品が出来上がったそうだ。アナスタシアさえよければ、王都に一緒に行って試着をしてみてはということだったのだが……」
アーヴェントによると王都にもオースティン家が所有する別邸があるとのことで、王都に数日間滞在して用事を済ませようかという提案だった。
（以前遠目で見た時、とても賑やかで栄えている印象を受けたのよね……その王都をアーヴェント様と一緒に周れる……行ってみたい……）
「ご一緒したいですっ」
青と赤、両の瞳をキラキラさせながらアナスタシアはアーヴェントに王都に行くことを願い出る。アーヴェントも同じ気持ちだったようで、快く了承してくれた。
「そうか。なら、一緒に行こう。明日から準備をしなくてはな」
「はいっ」
こうして、二人は王都へと赴くことになった。それから数日間、アナスタシアは期待を胸に準備に勤しむ。一方アーヴェントはゾルンに仕事の引継ぎなどを行うのだった。
