吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~
59 メイを本邸に迎え入れます
メイを送り届けてくれたリチャードは昼食を共にしたあと、爽やかに手を振りながら城へと戻った。その時、また会おうと言葉を添えてくれていた。
その後、アーヴェント達はこれからのことについて話し合う。結果、明日には王都を離れメイを連れて本邸へと帰ることになった。クーデリア子爵家への正式な手紙などの対応を速やかに行うため、そして来る祝賀パーティーへの準備を行うためだ。
翌日の早朝、フェオルが手配した馬車が別邸の前に並ぶ。メイはアーヴェントとアナスタシアの乗る先頭の馬車に乗ることになった。
「あの、アナ様。やはり私は後ろの馬車で構いませんので……」
アーヴェントとアナスタシアに遠慮しているのが丸わかりな仕草をするメイは俯き加減で両手をもじもじさせながら呟く。
「メイ、そんなこと言わないで。アーヴェント様もお許しになってくれたのだから、私の隣に座って頂戴。ね?」
「二人で積もる話もあるだろう? アナスタシアのたっての希望でもある。俺からも同乗をお願いしよう」
二人の好意がメイに向けられる。アナスタシアからお願いの仕草で頼まれ、アーヴェントからは頭を下げられたメイには断る理由などあるわけもなく、摘ままれた子猫のように礼をした後アナスタシアの隣にぽんと腰を降ろした。
「それでは本邸へと向かいまぁす。出発しますー」
フェオルの掛け声で皆を乗せた三台の馬車が動き出す。別邸に元から仕えている使用人達が総出でアーヴェント達の出発を見送った。王都からオースティン家の領地へは近くの街や村などで数回にわけて休憩を挟んだ後、到着したのは夕方を過ぎた頃だった。使用人達に出迎えられ、ラストやグラトンが荷物を馬車から運び出してくれた。
(ああ、以前も思っていたけれど帰ってくる場所があるってとっても嬉しいことね。それに今回はメイも一緒にいてくれる……私、本当に幸せ者ね)
「アナスタシア、どうかしたか?」
先にメイを降ろしたアーヴェントが屋敷を見つめながら物思いにふけっていたアナスタシアを心配して声を掛ける。
「も、申し訳ございません。アーヴェント様。つい考え事をしてしまっていました」
「ふふ。体調が優れないというわけではないのなら、いいさ。さ、手を」
「はい」
差し出されたアーヴェントの手をそっと掴む。ゆっくりと引かれ、タラップに足をかけ抱き寄せられるようにアナスタシアは場所を降りる。その二人の様子をキラキラした瞳でメイは見つめていた。見とれていたといっても間違いはないだろう。開かれた玄関から玄関ホールへと入るとゾルンが出迎えてくれた。
「無事のご到着、嬉しく思います。アーヴェント様もアナスタシア様もお帰りなさいませ」
「ありがとう。ゾルン」
ふっと笑みを浮かべながらアーヴェントが礼の言葉を口にする。するとゾルンもメイに気付いたようだ。アナスタシアをミューズ家に迎えにきた時に見かけて以来の再会となった。
「おや。確か貴方はミューズ家でおみかけしましたね」
「クーデリア嬢、執事長のゾルンだ」
軽く手でゾルンを指しながらアーヴェントが紹介する。メイもカーテシーをした上で返事をする。
「以前、アナ様をお迎えに来て頂いた方ですよね。改めて自己紹介をさせて頂きます。メイ・クーデリアです」
「ゾルン、クーデリア嬢はわざわざリュミエール王国からアナスタシアを訪ねてきてくれたんだ。まあ、形式上では俺が招いたということになるかな」
含みがある言い方でアーヴェントが語る。ゾルンも何かの意図を感じたようでほう、と一言呟く。次いでアーヴェントがアナスタシアとメイの方を振り向き、言葉を口にする。
「アナスタシア、今日はこれから自由に過ごして構わない。食事はラスト達に頼んで部屋で済ませればいい。クーデリア嬢とゆっくり話もしたいだろうからな」
柔らかい表情と綺麗な深紅の両の瞳がアナスタシアを見つめていた。
「アーヴェント様、お心遣いありがとうございます。そうさせて頂きますね」
「ああ、そうするといい。俺は王都でのことやクーデリア嬢の話をゾルンとするつもりだ。ラスト、二人を頼んでいいか?」
「はい。お任せください」
二人の後ろで話を聞いていたラストも優しく微笑みながら頷く。
「それじゃあ、メイ。私の寝室に案内するわねっ」
満面の笑みを浮かべながらアナスタシアがメイの手をとる。夢中で玄関ホールから二階へ続く階段へと歩いていく。ラストもゆっくりと二人の後ろをついていく。
「あ、アナ様。ちゃんと前を向いてください。転んでしまいますよっ」
「ごめんなさいね。でも私、本当に嬉しくてっ」
そう言いながら階段を上がっていくアナスタシアを愛おしそうにアーヴェントは見つめていた。その様子を見ていたゾルンが軽く咳払いをすると、目を細めながらアーヴェントも執務室の方向へと歩き出す。
メイはアナスタシアの寝室に通される。とても綺麗な装飾が施された部屋を見て、メイは感動しているように見えた。アナスタシアが以前のようなボロ小屋ではなく、ちゃんとした部屋で過ごしていると思っただけでメイにしてみれば喜びもひとしおだったのだろう。
「とても素敵なお部屋ですね、アナ様」
「ありがとう。このお部屋もアーヴェント様が用意してくれたものなの」
少し照れた様子でアナスタシアが言葉を口にする。その表情からもアナスタシアがアーヴェントに心を許しているのがメイにもわかった。その後、テーブルに掛けた二人にラストがお茶を出してくれた。その後、メイはアナスタシアにオースティン家でのことを熱心に訪ねていた。そんな話をしているうちに時間は経ち、ちょうど二人にも旅の疲れと眠気が訪れていた。
「お二人とも、そろそろお休みになった方がいいかと思いますわ。お話はまた明日にでも」
「そうね。ありがとう、ラスト」
「クーデリア様のお部屋は只今、準備致しますわね」
そうラストが口にすると、アナスタシアが重ねて言葉を掛ける。
「あの、ラスト。お願いがあるのだけれど……」
「何でしょうか、アナスタシア様」
「今日は……その……メイと一緒に寝てはいけないかしら?」
恥じらいを見せながら、アナスタシアがそんな言葉を口にする。ラストはすぐにアナスタシアの気持ちを理解してくれたようで微笑みながら返事をする。
「かしこまりました。では、クーデリア様の部屋着の準備をしてまいりますわね」
パァッとアナスタシアの表情が明るくなる。
「ありがとう、ラスト」
いえいえ、とラストは目で合図をしながら部屋着を準備するために部屋を後にする。アナスタシアは嬉しそうにメイに笑いかける。その後、部屋着に着替えた二人は同じベッドに横になるのだった。
「ねえ、メイ。起きてる……?」
「はい。起きてますよ、アナ様」
「覚えてる? 昔、私が眠れなかった時に一緒に寝てくれたわよね」
お互い天蓋を見つめながら昔のミューズ家でのことを語り始める。
「はい。覚えておりますよ。こうやってアナ様の隣で眠れる時がくるなんて……メイは本当に幸せ者です」
「私もよ……本当に嬉しい」
微笑むアナスタシアの横顔を軽く見た後、メイが呟く。
「王都の別邸でも口にしましたが……公爵様の所に嫁ぐアナ様をずっと心配しておりました。でも……これで良かったのだとメイは思っています」
「メイ……」
アナスタシアもメイの方を青と赤の瞳で見つめる。ふと彼女と目があった。
「お二人は本当に仲が良くて……公爵様に手を引かれる時のアナ様の嬉しそうなお顔を見れてメイは感激しています」
「……私、そんなに嬉しそうに見えた?」
照れた様子でアナスタシアがメイにそっと尋ねる。
「ええ、それはもう」
ふふ、と笑いながらメイが答える。アナスタシアも微笑んでいた。
「そうね……私、アーヴェント様のことを……」
そこまで言うと、疲れと安心したアナスタシアは眠りに落ちていく。その様子をメイは静かに見守っていた。
「おやすみなさい、アナ様」
そう言葉を掛けたメイは静かにベッドから起き上がる。しばらくすると寝室の扉が軽く開き、そして閉じた。
翌日、アナスタシアが目を覚ますと寝室の窓から朝の陽ざしが心地よく差し込んでいた。身体をゆっくりと起こし、隣を見ると既にメイの姿はなかった。彼女が来ていた部屋着は綺麗に畳まれており、部屋を見回しても姿がなかった。
「メイ、どこに行ってしまったのかしら……」
すると寝室のドアが軽くノックされる。ラストが朝の準備を手伝いに来てくれたと思ったアナスタシアはどうぞ、といつも通りに言葉を口にする。扉がゆっくりと開かれるとそこにはメイド服に身を包んだメイの姿があったのだ。
「メイ……?!」
「アナ様、おはようございます! 朝の準備のお手伝いに参りましたっ!」
その後、アーヴェント達はこれからのことについて話し合う。結果、明日には王都を離れメイを連れて本邸へと帰ることになった。クーデリア子爵家への正式な手紙などの対応を速やかに行うため、そして来る祝賀パーティーへの準備を行うためだ。
翌日の早朝、フェオルが手配した馬車が別邸の前に並ぶ。メイはアーヴェントとアナスタシアの乗る先頭の馬車に乗ることになった。
「あの、アナ様。やはり私は後ろの馬車で構いませんので……」
アーヴェントとアナスタシアに遠慮しているのが丸わかりな仕草をするメイは俯き加減で両手をもじもじさせながら呟く。
「メイ、そんなこと言わないで。アーヴェント様もお許しになってくれたのだから、私の隣に座って頂戴。ね?」
「二人で積もる話もあるだろう? アナスタシアのたっての希望でもある。俺からも同乗をお願いしよう」
二人の好意がメイに向けられる。アナスタシアからお願いの仕草で頼まれ、アーヴェントからは頭を下げられたメイには断る理由などあるわけもなく、摘ままれた子猫のように礼をした後アナスタシアの隣にぽんと腰を降ろした。
「それでは本邸へと向かいまぁす。出発しますー」
フェオルの掛け声で皆を乗せた三台の馬車が動き出す。別邸に元から仕えている使用人達が総出でアーヴェント達の出発を見送った。王都からオースティン家の領地へは近くの街や村などで数回にわけて休憩を挟んだ後、到着したのは夕方を過ぎた頃だった。使用人達に出迎えられ、ラストやグラトンが荷物を馬車から運び出してくれた。
(ああ、以前も思っていたけれど帰ってくる場所があるってとっても嬉しいことね。それに今回はメイも一緒にいてくれる……私、本当に幸せ者ね)
「アナスタシア、どうかしたか?」
先にメイを降ろしたアーヴェントが屋敷を見つめながら物思いにふけっていたアナスタシアを心配して声を掛ける。
「も、申し訳ございません。アーヴェント様。つい考え事をしてしまっていました」
「ふふ。体調が優れないというわけではないのなら、いいさ。さ、手を」
「はい」
差し出されたアーヴェントの手をそっと掴む。ゆっくりと引かれ、タラップに足をかけ抱き寄せられるようにアナスタシアは場所を降りる。その二人の様子をキラキラした瞳でメイは見つめていた。見とれていたといっても間違いはないだろう。開かれた玄関から玄関ホールへと入るとゾルンが出迎えてくれた。
「無事のご到着、嬉しく思います。アーヴェント様もアナスタシア様もお帰りなさいませ」
「ありがとう。ゾルン」
ふっと笑みを浮かべながらアーヴェントが礼の言葉を口にする。するとゾルンもメイに気付いたようだ。アナスタシアをミューズ家に迎えにきた時に見かけて以来の再会となった。
「おや。確か貴方はミューズ家でおみかけしましたね」
「クーデリア嬢、執事長のゾルンだ」
軽く手でゾルンを指しながらアーヴェントが紹介する。メイもカーテシーをした上で返事をする。
「以前、アナ様をお迎えに来て頂いた方ですよね。改めて自己紹介をさせて頂きます。メイ・クーデリアです」
「ゾルン、クーデリア嬢はわざわざリュミエール王国からアナスタシアを訪ねてきてくれたんだ。まあ、形式上では俺が招いたということになるかな」
含みがある言い方でアーヴェントが語る。ゾルンも何かの意図を感じたようでほう、と一言呟く。次いでアーヴェントがアナスタシアとメイの方を振り向き、言葉を口にする。
「アナスタシア、今日はこれから自由に過ごして構わない。食事はラスト達に頼んで部屋で済ませればいい。クーデリア嬢とゆっくり話もしたいだろうからな」
柔らかい表情と綺麗な深紅の両の瞳がアナスタシアを見つめていた。
「アーヴェント様、お心遣いありがとうございます。そうさせて頂きますね」
「ああ、そうするといい。俺は王都でのことやクーデリア嬢の話をゾルンとするつもりだ。ラスト、二人を頼んでいいか?」
「はい。お任せください」
二人の後ろで話を聞いていたラストも優しく微笑みながら頷く。
「それじゃあ、メイ。私の寝室に案内するわねっ」
満面の笑みを浮かべながらアナスタシアがメイの手をとる。夢中で玄関ホールから二階へ続く階段へと歩いていく。ラストもゆっくりと二人の後ろをついていく。
「あ、アナ様。ちゃんと前を向いてください。転んでしまいますよっ」
「ごめんなさいね。でも私、本当に嬉しくてっ」
そう言いながら階段を上がっていくアナスタシアを愛おしそうにアーヴェントは見つめていた。その様子を見ていたゾルンが軽く咳払いをすると、目を細めながらアーヴェントも執務室の方向へと歩き出す。
メイはアナスタシアの寝室に通される。とても綺麗な装飾が施された部屋を見て、メイは感動しているように見えた。アナスタシアが以前のようなボロ小屋ではなく、ちゃんとした部屋で過ごしていると思っただけでメイにしてみれば喜びもひとしおだったのだろう。
「とても素敵なお部屋ですね、アナ様」
「ありがとう。このお部屋もアーヴェント様が用意してくれたものなの」
少し照れた様子でアナスタシアが言葉を口にする。その表情からもアナスタシアがアーヴェントに心を許しているのがメイにもわかった。その後、テーブルに掛けた二人にラストがお茶を出してくれた。その後、メイはアナスタシアにオースティン家でのことを熱心に訪ねていた。そんな話をしているうちに時間は経ち、ちょうど二人にも旅の疲れと眠気が訪れていた。
「お二人とも、そろそろお休みになった方がいいかと思いますわ。お話はまた明日にでも」
「そうね。ありがとう、ラスト」
「クーデリア様のお部屋は只今、準備致しますわね」
そうラストが口にすると、アナスタシアが重ねて言葉を掛ける。
「あの、ラスト。お願いがあるのだけれど……」
「何でしょうか、アナスタシア様」
「今日は……その……メイと一緒に寝てはいけないかしら?」
恥じらいを見せながら、アナスタシアがそんな言葉を口にする。ラストはすぐにアナスタシアの気持ちを理解してくれたようで微笑みながら返事をする。
「かしこまりました。では、クーデリア様の部屋着の準備をしてまいりますわね」
パァッとアナスタシアの表情が明るくなる。
「ありがとう、ラスト」
いえいえ、とラストは目で合図をしながら部屋着を準備するために部屋を後にする。アナスタシアは嬉しそうにメイに笑いかける。その後、部屋着に着替えた二人は同じベッドに横になるのだった。
「ねえ、メイ。起きてる……?」
「はい。起きてますよ、アナ様」
「覚えてる? 昔、私が眠れなかった時に一緒に寝てくれたわよね」
お互い天蓋を見つめながら昔のミューズ家でのことを語り始める。
「はい。覚えておりますよ。こうやってアナ様の隣で眠れる時がくるなんて……メイは本当に幸せ者です」
「私もよ……本当に嬉しい」
微笑むアナスタシアの横顔を軽く見た後、メイが呟く。
「王都の別邸でも口にしましたが……公爵様の所に嫁ぐアナ様をずっと心配しておりました。でも……これで良かったのだとメイは思っています」
「メイ……」
アナスタシアもメイの方を青と赤の瞳で見つめる。ふと彼女と目があった。
「お二人は本当に仲が良くて……公爵様に手を引かれる時のアナ様の嬉しそうなお顔を見れてメイは感激しています」
「……私、そんなに嬉しそうに見えた?」
照れた様子でアナスタシアがメイにそっと尋ねる。
「ええ、それはもう」
ふふ、と笑いながらメイが答える。アナスタシアも微笑んでいた。
「そうね……私、アーヴェント様のことを……」
そこまで言うと、疲れと安心したアナスタシアは眠りに落ちていく。その様子をメイは静かに見守っていた。
「おやすみなさい、アナ様」
そう言葉を掛けたメイは静かにベッドから起き上がる。しばらくすると寝室の扉が軽く開き、そして閉じた。
翌日、アナスタシアが目を覚ますと寝室の窓から朝の陽ざしが心地よく差し込んでいた。身体をゆっくりと起こし、隣を見ると既にメイの姿はなかった。彼女が来ていた部屋着は綺麗に畳まれており、部屋を見回しても姿がなかった。
「メイ、どこに行ってしまったのかしら……」
すると寝室のドアが軽くノックされる。ラストが朝の準備を手伝いに来てくれたと思ったアナスタシアはどうぞ、といつも通りに言葉を口にする。扉がゆっくりと開かれるとそこにはメイド服に身を包んだメイの姿があったのだ。
「メイ……?!」
「アナ様、おはようございます! 朝の準備のお手伝いに参りましたっ!」