吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~
68 彼女は俺の誇りだ
予定より早くアーヴェントとアナスタシアは王城から王都の別邸へと帰宅した。アナスタシアはとても疲れており、メイに連れられて寝室へと向かった。今日はそのまま休みたいと言っていたのでアーヴェントはそれを快く許可した。
「ラスト、少し話をしたいのだがいいか?」
「もちろんですわ」
二人はその足で別邸でアーヴェントが使用している執務室へと向かう。彼が執務机の椅子にかけて一息つく。ラストはお茶の準備をしていた。その時、メイが執務室の扉をノックする。中に入るように言われたメイは扉をあけ、礼をしつつ中に入って来た。
「メイ、アナスタシアの様子を教えてくれるか?」
「寝る御支度をした後、そのままベッドでお休みになられました。とても疲れていたようです」
「そうか。メイ、お前も今日は休んでいい。ご苦労だった」
「はいっ。では、失礼致します」
メイは一礼すると執務室を後にした。アナスタシアのことが心配そうな表情を終始していたので様子を見に行きたかったのだろう。
メイを見送り、お茶を淹れたカップをアーヴェントの机の上にそっと置いたラストが言葉を掛ける。
「今日は予定より早いお帰りでしたのね。パーティーで何かありましたか?」
執務机に両肘をつけ顔の目で手を組んだアーヴェントは軽く息を吐いた後、城で行われたパーティーの話を始める。
「今日のパーティーにリュミエール王国側の代表として第一王子のハンス・リュミエールが現れたのだ。婚約者のフレデリカ・ミューズ、そしてレイヴン・ミューズもだ」
「……確か前回リュミエール王国側で行われたパーティーにも参加していなかったと聞いておりましたけれど……」
「レイヴンも同様だ。ライナー達からも招待状の返事がないことから今年のパーティーへの出席はないだろうという話だったが……アルク王達の反応を見る限りは連絡もなしに訪れた、というところだろうな」
まあ、と目を細めながらラストが口に手を添えて反応してみせる。
「やはりお目当てはアナスタシア様だったのでしょうか?」
「ああ……間違いないだろうな。婚約者のフレデリカまで連れて来ていたということは大体何をしたかったのかは想像に容易い。……虫唾が走る」
組んだ手に力が込められ、アーヴェントは険しい表情を浮かべていた。そこにラストが優しく声を掛ける。
「その様子だと我慢されたようですね。ご立派ですわ」
「……アナスタシアのおかげだ。彼女はそんな奴らに毅然とした態度で言葉を交わしていた。どれだけの重圧に耐えながら、それだけのつらい過去に向き合いながらの言葉だったか……それを考えると下手なことは出来ない……いや、少しお灸は据えてやったが、軽いものだ」
ふふ、とラストが笑って見せる。アーヴェントは言葉を続ける。
「それに立派だったのは彼女のほうだ。俺も思わずみとれる程にアナスタシアは美しく堂々としていた。この屋敷に来た時は今にも消えてしまいそうだった彼女が、ここまで強くなってくれたことを俺は誇りに思うよ」
「それもアーヴェント様が優しいお言葉と態度で接してくださったからだと、私は思いますわ」
「そうだと嬉しいな」
柔らかい表情でアーヴェントが笑って見せる。今考えているのはアナスタシアのことだろう。愛しさが溢れる笑顔だった。
「オースティン家に来て、アナスタシア様はお変わりになりました。と、言うよりも本来のご自分を取り戻したというのが正しいのかもしれませんわね。萎縮していた時の雰囲気は薄まり、アナスタシア様らしさが溢れているのがわかりますもの」
ラストの言葉にアーヴェントも同意の意味の頷きをしてみせる。
「ああ、ラストの言う通りだな。アナスタシアは本来、気高くも美しい女性なのだ。それが多くの貴族達の前で示されたことで俺は満足している」
先程まで力が込められていた両手をそっと机の上に置き、お茶の入ったカップを手に取るとアーヴェントは口に含む。気分を落ち着かせるハーブの良い匂いが香っていた。表情も優しくなる。アーヴェントが置いたカップにお茶のおかわりをラストがそっと注ぐ。
「……あちらもそろそろ気づいた、と俺は見ている」
ふとアーヴェントが呟く。ラストは何、と尋ねることもなく横に立ちながら口を開いた。
「では……何か動きがあるかもしれませんわね」
「痴れ者達のことだ。どんなことをしてくるか……だが答えは既に出ている」
「もしもの時は、アナスタシア様に全てをお話になるのですか?」
「ゾルンにも言われたよ。出来るのならば俺の胸の中だけに秘めておきたいことだが……実を言うとまだその覚悟は決まっていないんだ……」
目を細めながらアーヴェントが呟く。迷っている彼にラストは一言告げる。
「ご主人様にはアナスタシア様を幸せにする責任があることを、どうかお忘れなく」
「ああ……そうだな」
ラストは明るい表情で頷いて見せる。
「お話はこの辺にしましょうか。そろそろ、アーヴェント様もお休みになったほうがいいですわ」
「ああ、そうするよ」
夜も更けてきたことで、アーヴェントも自分の寝室に向かう。こうして祝賀記念パーティーの日は終わりを告げた。翌日、アーヴェントとアナスタシア達は王都を後にしオースティン領への帰路に着くのだった。
「ラスト、少し話をしたいのだがいいか?」
「もちろんですわ」
二人はその足で別邸でアーヴェントが使用している執務室へと向かう。彼が執務机の椅子にかけて一息つく。ラストはお茶の準備をしていた。その時、メイが執務室の扉をノックする。中に入るように言われたメイは扉をあけ、礼をしつつ中に入って来た。
「メイ、アナスタシアの様子を教えてくれるか?」
「寝る御支度をした後、そのままベッドでお休みになられました。とても疲れていたようです」
「そうか。メイ、お前も今日は休んでいい。ご苦労だった」
「はいっ。では、失礼致します」
メイは一礼すると執務室を後にした。アナスタシアのことが心配そうな表情を終始していたので様子を見に行きたかったのだろう。
メイを見送り、お茶を淹れたカップをアーヴェントの机の上にそっと置いたラストが言葉を掛ける。
「今日は予定より早いお帰りでしたのね。パーティーで何かありましたか?」
執務机に両肘をつけ顔の目で手を組んだアーヴェントは軽く息を吐いた後、城で行われたパーティーの話を始める。
「今日のパーティーにリュミエール王国側の代表として第一王子のハンス・リュミエールが現れたのだ。婚約者のフレデリカ・ミューズ、そしてレイヴン・ミューズもだ」
「……確か前回リュミエール王国側で行われたパーティーにも参加していなかったと聞いておりましたけれど……」
「レイヴンも同様だ。ライナー達からも招待状の返事がないことから今年のパーティーへの出席はないだろうという話だったが……アルク王達の反応を見る限りは連絡もなしに訪れた、というところだろうな」
まあ、と目を細めながらラストが口に手を添えて反応してみせる。
「やはりお目当てはアナスタシア様だったのでしょうか?」
「ああ……間違いないだろうな。婚約者のフレデリカまで連れて来ていたということは大体何をしたかったのかは想像に容易い。……虫唾が走る」
組んだ手に力が込められ、アーヴェントは険しい表情を浮かべていた。そこにラストが優しく声を掛ける。
「その様子だと我慢されたようですね。ご立派ですわ」
「……アナスタシアのおかげだ。彼女はそんな奴らに毅然とした態度で言葉を交わしていた。どれだけの重圧に耐えながら、それだけのつらい過去に向き合いながらの言葉だったか……それを考えると下手なことは出来ない……いや、少しお灸は据えてやったが、軽いものだ」
ふふ、とラストが笑って見せる。アーヴェントは言葉を続ける。
「それに立派だったのは彼女のほうだ。俺も思わずみとれる程にアナスタシアは美しく堂々としていた。この屋敷に来た時は今にも消えてしまいそうだった彼女が、ここまで強くなってくれたことを俺は誇りに思うよ」
「それもアーヴェント様が優しいお言葉と態度で接してくださったからだと、私は思いますわ」
「そうだと嬉しいな」
柔らかい表情でアーヴェントが笑って見せる。今考えているのはアナスタシアのことだろう。愛しさが溢れる笑顔だった。
「オースティン家に来て、アナスタシア様はお変わりになりました。と、言うよりも本来のご自分を取り戻したというのが正しいのかもしれませんわね。萎縮していた時の雰囲気は薄まり、アナスタシア様らしさが溢れているのがわかりますもの」
ラストの言葉にアーヴェントも同意の意味の頷きをしてみせる。
「ああ、ラストの言う通りだな。アナスタシアは本来、気高くも美しい女性なのだ。それが多くの貴族達の前で示されたことで俺は満足している」
先程まで力が込められていた両手をそっと机の上に置き、お茶の入ったカップを手に取るとアーヴェントは口に含む。気分を落ち着かせるハーブの良い匂いが香っていた。表情も優しくなる。アーヴェントが置いたカップにお茶のおかわりをラストがそっと注ぐ。
「……あちらもそろそろ気づいた、と俺は見ている」
ふとアーヴェントが呟く。ラストは何、と尋ねることもなく横に立ちながら口を開いた。
「では……何か動きがあるかもしれませんわね」
「痴れ者達のことだ。どんなことをしてくるか……だが答えは既に出ている」
「もしもの時は、アナスタシア様に全てをお話になるのですか?」
「ゾルンにも言われたよ。出来るのならば俺の胸の中だけに秘めておきたいことだが……実を言うとまだその覚悟は決まっていないんだ……」
目を細めながらアーヴェントが呟く。迷っている彼にラストは一言告げる。
「ご主人様にはアナスタシア様を幸せにする責任があることを、どうかお忘れなく」
「ああ……そうだな」
ラストは明るい表情で頷いて見せる。
「お話はこの辺にしましょうか。そろそろ、アーヴェント様もお休みになったほうがいいですわ」
「ああ、そうするよ」
夜も更けてきたことで、アーヴェントも自分の寝室に向かう。こうして祝賀記念パーティーの日は終わりを告げた。翌日、アーヴェントとアナスタシア達は王都を後にしオースティン領への帰路に着くのだった。