【コンテスト参加作品】私が愛した人は、殺人犯でした。
十年ぶりにやってきた故郷に、文哉は少し辛そうな顔をしていた。
あの事件を起こした日以来、文哉は故郷を捨ててこの街から姿を消したそうだ。
それ以来、全く来ていなかったらしい。知り合いも多く、両親の借金のことを知っている人も多かったとのことで、この街に居づらくなった文哉は、あの事件の日の数日後、一人でここを出たそうだ。
「文哉……大丈夫?」
「……大丈夫だ」
きっと思い出すのさえ、辛いと思う。
「杏珠、行こう」
「……うん」
私たちは数日間、この街に滞在することにした。
何かを掴むまでは、帰らない覚悟でーーー。
まず最初に向かったのは、文哉が昔住んでいた家だった。
この家はずっと、あの日以来空き家のままだったらしい。
住む人もいないせいで、幽霊屋敷とも呼ばれているという噂を耳にした。
「幽霊屋敷って……」
そんなの、ひどい言い草だわ……。
「仕方ないさ。……街の噂なんて、イヤでもすぐに広がるんだからさ」
文哉の家は空き家のままだったせいかは分からないが、きれいな状態に保たれていた。
幽霊屋敷とも呼ばれているせいなのか、この家に入る人はいなかったらしい。
……幽霊屋敷だなんて、ひどい話だわ。