【コンテスト参加作品】私が愛した人は、殺人犯でした。
文哉は苦しそうな顔をしながら、言葉を続ける。
「それに腹が立って、気が付いたら……俺はアイツを階段から突き落としてたんだ……」
階段から……突き落とした……。
「俺はその時、ハッとして我に返った。……でも、捕まりなくなくて、俺はその場から逃げてしまったんだ……」
それは文哉の、誰にも言えなかった秘密だった。
誰にも言えず、ずっと苦しんでいたんだと思うと、胸の奥が痛くなった。
「そいつは……後に事故で処理された。階段から足を滑らせたことによる、事故ってな」
文哉いわく、その人は事故で処理されたとのことで、文哉は警察に話を聞かれることもなかったそうだ。
「……俺はずっと、孤独を抱えて生きてきた。誰にも頼らず、一人で生きてきた。寂しくなんてなかったし、それが当たり前だと思ってたんだ」
文哉から漏れる震える声は、微かに涙で掠れていた。
「でも俺は、杏珠と出会って変われたんだ。……杏珠がいなかったら、今の俺はいないし、こんな風に生きることもきっと出来なかったと思う」
文哉の本当の気持ちを知ることで、私の心は不安な気持ちがちょっとでも減る気がしていた。
「でも……杏珠にこのことをずっと言えなかったのは、やっぱり怖かったからだ」