その甘さに、くらくら。
 まさか、あの時のことを、五月女はまだ根に持っているのだろうか。俺は何度も謝った。謝って済むことではないとしても、そうすることでしか償えない。それ以外の方法を俺は知らない。

 後で五月女に話を聞くしかない、と血液の行方を捜索するのを中断し、俺はカバンから弁当箱を取り出して広げた。口の中が渇いていた。軽く水分を摂って、白飯を口に運んだ。血液、血液、と探してしまうほど欲しがっていても、普通の食事は普通にできた。

 飯を噛み砕いて、飲み込む。噛み潰された飯が、喉を通り過ぎていく。それを繰り返して。空腹を満たす。そこだけ切り取れば、俺は普通の人間だ。どこにでもいる、男子高校生。

 俺が特殊体質、所謂ヴァンパイアであることを知っているのは、先程睨み合った五月女だけだ。そして彼もまた、俺と同種だ。ヴァンパイアだ。

 ヴァンパイアは、普通の人間とほとんど変わらない。言われなければそうだとは分からないほどに、その見た目は多くの人間と大差がなかった。それでもヴァンパイアだと識別されるのは、定期的に血液を飲まなければ、普通の食事では満たされないほどの飢えに苦しんでしまうからだ。それにより暴走し、誰彼構わず噛みついて傷つけてしまったり、最悪の場合、強烈な飢えで死に至ったりしてしまう例も少なくない。そのため、ヴァンパイアにとって血液は、なくてはならない重要な栄養素だった。暴走しないよう、死なないよう、自分をコントロールするための。
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