その甘さに、くらくら。
 その栄養素が、重要なものが、今は手元にない。おかずを噛み砕きながら、周りを見る。クラスメートを見る。人間を見る。男、女。その、首筋。血液自体はそこら中に腐るほどあるが、吸血した時点で俺がヴァンパイアであることが明らかになってしまうし、ヴァンパイアに噛まれてしまった人は、唾液の成分が作用して発情してしまう。ヴァンパイアは、噛んだ相手を強制的に興奮状態にさせてしまうのだ。そこもまた、無闇に噛めない理由だった。

 そういったセンシティブな問題点があるため、俺は、誰のものか分からない血液を匿名で購入して飲んでいた。献血と同じだ。親切な誰かが、苦しむヴァンパイアのため、自分のそれが役に立つのなら、と寄付をした血液。実際、役に立っていた。なぜか、美味しいと感じず、不味いと感じてしまう血に当たってしまうことが多いが、飲まないよりはましだ。あまりに不味くても無理やり胃の中に入れてしまえば、それは勝手に栄養になってくれる。他人の首を噛んで発情させてしまうよりも、そっちの方が安全だった。

 俺は俺の正体を、理性を失くして首を噛むことで大っぴらにしたくはないし、俺のせいで、誰かを不本意に発情させたくもない。過去、それで失敗したことがあるから尚のこと。もうそんなミスを犯したくはない。

 だから俺は、買った血液で、自分の奥底に潜む欲求を満たしていた。表に出さないように。出ないように。誰も被害に遭わないように。遭わせないように。

 俺はそうして自制しているが、俺と同種の五月女は、恐らく違う。五月女が今後も固く口を結び、誰にも暴露さえしなければ、俺がヴァンパイアであることは拡散されないだろうが、五月女はその域にいなかった。
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