『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
慰めて欲しいですか?
「八神くん、そろそろ外回り行くけど、準備できてる?」
「はいっ、準備できてます!」
手触りのいいカシミアのコートを羽織り、ビジネスバッグを手にした私、白井 璃子(二十九歳)。
外食プロデュース・コンサルティング会社の『HASUMI FOOD Co.,Ltd.』 戦略営業部 企画室主任(チーフ)で、今年入社八年目。
都内屈指のビジネス街にオフィスを構える、この業界では結構名の知れた会社だ。
その会社で、顧客のニーズに応じてプランニングするのが私の仕事。
メニュー考案から店舗や調理場のデザイン、人員の確保に至るまで、様々なプランニングスキルが要求される。
今年入社二年目の八神 悠真(二十四歳)を引き連れ、取引先の打ち合わせに向かうため、ホワイトボードの白井と八神の欄に【外→直帰】と記す。
「市くん、外回りから直帰するから」
「りょ~か~い」
市くんこと、市井 直哉(二十七歳)。
二つ年下の部下で、二年前に私の親友の麻里(二十九歳)と結婚した。
来月で一歳になる男の子(歩)がいる一児のパパだ。
十二月の寒風吹きすさぶオフィス街を抜け、地下鉄で取引先へと向かう電車内。
「メニュー案落としたUSB持って来た?」
「はい、持ってます」
「それと、デザイン修正案も持って来た?」
「はい、あります」
担当している大手自動車メーカーの工場内にある社食へのアプローチ。
お試しプランとして、低価格で栄養且つボリューミーなメニューと食堂改修の提案だ。
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