『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
もう迷う理由は何もないでしょ
三月下旬に差し掛かり、四月からの新入社員の子達が入社説明会という名の仮研修みたいなものに参加していて。
社内でも一際目を惹く八神くんは、もれなくその新入社員の子達にも大人気。
そろそろ時期的に人事異動の通達が出る頃なんだけど。
八神くんはどこに移動するんだろう?
移動願を出したからと言って、必ず移動するわけじゃない。
一般職から試験を受けて総合職へとステップアップする人もいるわけで。
だけど少なからず、毎日職場で見れなくなったら“寂しくなるな”だなんて思ってしまう。
今週末は私の誕生日。
退社後に彼と会う約束をしている。
もうそれだけで十分だよね。
一人で三十歳を迎えるわけじゃないんだもん。
寂しいだとか、言ってる場合じゃない。
もう恋愛なんてしなくてもいいと思ってたんだから。
*
「白井さん、ちょっといいかしら?」
「ッ?!……あ、はい」
わざわざ私のデスクに浅沼部長が声をかけに来た。
私、何かミスったのかな?
それとも、人事のことで?
この時期に上司から呼び出しされると、心臓に悪い。
もしかしたら、私に移動辞令が出たんじゃないかとさえ思えて来る。
営業一本でやって来たから、この年で移動するのもかなりの勇気だ。
部長の後を追うように部長室へと。
「失礼します」
「とりあえず、座って」
「……はい、失礼します」
応接用のソファに腰掛け、部長にバレないように深呼吸した、その時。
「今週の金曜日の十七時に、私と会って貰いたい人がいるんだけど…」
「……金曜日ですか?」
「えぇ、……ダメかしら?」