『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
その日の二十時過ぎ。
駅前のコンビニで缶ビールを買って、八神くんの自宅へと。
「こんばんは」
「おかえり、璃子さん♪」
「何か、いい匂いがする」
「生姜焼き作ったとこ♪」
出先から直帰した彼は、私のために夕食を作ってくれたようだ。
お坊ちゃん育ちの割には彼は結構何でもできる。
留学時代に掃除洗濯家事を自分でしていたらしい。
この部屋の掃除もしっかりできていて、彼に対してマイナスになる所が今のところ見つからない。
「先にシャワーにする?ご飯にする?それとも、俺にする?」
「……ご飯下さい」
「えー、そこは『悠真くんがいい♪』とか言おーよ」
「何でよ」
ちょっぴり悪戯っぽく笑う彼の胸を軽く小突いて。
「お邪魔します」
ヒールを揃えて、リビングへと。
「ねぇ、璃子さん」
「ん?」
「いつになったら、悠真って呼んでくれんの?」
「え?」
何、突然……。
「俺と結婚して、俺が婿になったら、俺は白井になんだけど」
「………は?」
「いやだから、八神じゃなくなるっつー話」
「いや、意味わかんない」
結婚するなら、私が八神になるんじゃなくて?
いや、そもそもまだ結婚すると決めたわけじゃないんだけど。
たまに、この子はぶっ飛んだ話をする。
これが平常運転なのかもしれないけれど。
そんな冗談、乗れる年じゃないんだよ、もう。
「そんなことよりさ、八神くんって、元々部署どこ志望だったの?」
「そんなことって、それ酷くない?……ま、いいけど」
あ、拗ねた。
こういう所が少し子供っぽいんだよね。