『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

「お風呂入って来るね?」
「え、何それ」
「ん?」
「俺に想像しとけってこと?」
「はい?」
「いや、だって、今から裸になるんでしょ?」
「……意味合い違うけどね」
「じゃあ、ビデオ通「かけ直す」

プツッ。
ダメだ、変態相手に癒されたいだなんて……。

でも声が聞けて、シャワーしに行く気力は湧いたよ。
懐かれるのも悪くない。



お風呂から出て肌の手入れを施し、髪も乾かし終わって。
時計を見ると、二十二時を少しまわったところ。

まだ起きてるかな……。

スマホをじーっと見据えていた、その時。
ブブブッと震え、画面に『八神くん』の文字が。

「もしもし?」
「誰でしょうか?」
「……八神くん」
「せぇ~かい♪」
「酔ってるの?」
「酔ってないよ」
「飲んでるの?」
「ちょっとだけ」

普段も陽気な人だけど、更に陽気な感じがする。

「明日のご飯、何食べたい?」
「う~ん、何でもいいよ?」
「えー、リクエストないの~?」
「特には」

予約してくれてるんじゃないんだ……なんて、少し落胆してしまう。
三十路の常識を当てはめたらダメだって分かってるのに。
何を期待してるんだろう。

『好き』だとか『結婚して』だなんて言われてるから、脳が勝手に自動変換してるに決まってる。
二十五歳という年齢から考えたら、結婚なんてまだまだ先のことだろうし。

そもそも仕事だって、この春に移動になって一からスタートする彼に何を期待してるんだろう。

これだから、『三十歳』は困るんだよ。
二十代のままで止まってて欲しいのに。

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