『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

社長の言葉に心臓がトクンと跳ねる。
“結婚”……意識してないわけではない。
彼から何度となくプロポーズの言葉も貰っている。

単なる言葉のあやだったかもしれない。
揶揄いの一言だったかもしれない。
それでも、彼と過ごした時間は嘘じゃない。

ただ、一度破談した過去があるのと、五歳という年の差で思うように気持ちの整理ができないだけ。
けれど、第三者に言われて自覚した。

もしこの先、誰かと結婚するのであれば、それは間違いなく“八神くん”であって欲しいと。

彼が私に語り掛けてくれた優しい眼差し。
そっと抱き寄せて安心させてくれるぬくもり。
何度となく怒りを露わにして寄り添ってくれた思いやり。

そのどれもが私の心の中に息づいている。

「若いうちは付き合うだけの関係もあるだろう。だが年齢を重ね、人生の伴侶にと考えた時、心から支えになる相手がいるのといないのとでは人生の充実度がだいぶ変わるよ?」
「……はい」
「今交際している彼と結婚を考えていないのなら、一度会ってみないか?私が太鼓判を押す人物だから」
「………」

浅沼部長とアイコンタクトし、視線を向けて来る。

もう逃げれない。
だって、答えは出ているもの。
ただそれを口にしてなかっただけ。

「申し訳ありません。今野専務とはお会いできません。……彼を裏切ることはしたくないので」
「そうか。……意思は固いようだね」

フッと柔らかい笑みを浮かべた社長は、浅沼部長の肩をポンと叩いた。
すると、

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