『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました


「璃子さん、ごめんね?マジで親父のアホが、要らぬこと次から次へと言い出して」
「っ……ん…」

ホテルを後にし、八神く……悠真くんとタクシーに乗り込んだ。

「もう一度、確認したいんだけど…」
「ん?」
「本当に蓮水社長の息子さんなの?」
「うん、……黙っててごめん」
「………そっか」

別に彼の苗字が八神じゃなくても気にしない。
ご両親が離婚して名前が急に変わることだってあるし。
だけど、社長の息子だということを隠されていたことは正直ショックだ。

どこかの会社の御曹司というならまだしも。
自分が勤務している会社の御曹司となれば、話は別だ。

「もしかして、……俺との将来考え直すとか言わないよね?」
「………」
「俺、璃子さんと別れるつもりないよ?」

分かってる。
不可抗力みたいなものだってのも。

だって、彼はちゃんと入社試験も受けているし、今日まで実力で仕事をこなして来た。
それは上司である私が、一番よく分かっている。

「ちょっとびっくりはしたかな……」
「……ん」
「少し前に森野さんの件で留学した経緯も聞いてたし、移動願の件もちゃんと事前に知らされてたしね」
「……ん」
「頭では分かってるんだけど、ちょっと気持ちが追い付かなくて」
「……そうだよね」

シュンと項垂れる彼。
彼だって、親との約束がなかったら、きっともっと早くに打ち明けてくれていただろう。
彼はそういう人だもの。

「運転手さん、その角曲がった先で止めて下さい」

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