『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

「璃子さん」

タクシーを降りて、そっと差し出された、彼の手。
その手にそっと手を重ねた。

秋の紅葉シーズンに来たことのある公園。
グルっと一周できるように遊歩道が整備されていて、春の風に吹かれてどこからともなく花の香りがする。

遊歩道を照らす外灯が点在していて、その中をゆっくりと彼と手を繋いで歩いていると。

「俺ね。璃子さんに婚約者がいても諦めきれないくらいすっごく好きで。時間が経てばいつかは消えるかな?とか、好きな人が出来たら忘れられるかな?とか、毎日必死に自分に言い聞かせてた」
「……」
「だけど、そんな時に破談になったって知って。あぁ~これは運命なんじゃないかって思えて」
「……」
「それでも、社長の息子ってことを隠してることもあって、どうしても一歩踏み出せなくて。あの日、あのレストランに璃子さんがいなかったら、諦めようって思ってたんだ」
「え…」
「一か八かの賭けだよ。璃子さんとの縁があるなら、きっと巡り会えると思って」
「っ……」
「だから、あの日にあの場所で会えたことは、絶対巡り会う運命だったんだって思うから」

足を止め、真っすぐ見つめて来る彼の眼差しはとても優しくて。
五歳差だということすら忘れさせてくれる安心感がある。

「このまま仕事続けたら、八神く……悠真くんより五年も先に定年が来るよ?」
「大丈夫。俺、社長になるから、定年関係ないし。璃子さんも社長夫人になるから、気にしなくていい」
「っ……」
「後は?……何か不安なことがある?」
「五歳も年上だから、私の方が先に介護必要になると思うよ?」
「男女の平均寿命は男性の方が短いから、俺の方が先に介護が必要になるんじゃないかな?ま、個人差もあるだろうけど」

< 117 / 126 >

この作品をシェア

pagetop