『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

遂に璃子さんから結婚の承諾を貰った。
もうそれだけで、気がどうにかなりそうだ。

親との約束で、海外の大学に留学させて貰う条件として、“会社を継ぐ”という約束を交わしていた。
MBAを取得し、マーケティングの専門知識を学び、会社経営に必要な基礎知識を五年間勉強した。

帰国と同時に父親の会社に入社し、“蓮水”という名を伏せて、営業知識を叩き込むために親の手を借りずに一から学んだ。
その日々の中で『白井 璃子』という女性に出会い、いつしか自然と惹かれ恋に落ちた。

結婚を約束している人がいると分かっても、消すことができなかった想い。
恋することは初めてじゃないのに、俺の全てを持ってかれるほど魅力的で。

ただ、彼女の幸せを見守っているだけでいいと思っていたのに。
彼女が破談になったと知らされ、押さえ込んでいた感情が蠢き始めた。

五歳というハンデを乗り越えるには、かなり大きなきっかけがなければ無理だとは分かっていた。
だから、いつかそのきっかけとなる引き金があるのだとしたら、絶対見失わないようにと思って……。

あの日、あの時、あのレストランで。
彼女を連れ出せたことが人生最大のチャンスなんだと思えたから。

名前が偽名でも。
歳が五歳も年下でも。
上司と部下という関係性であっても。

それでも、決して諦めきれないと思えるほどの女性だから。

「璃子さん」
「ん?」
「ここは俺だけのモノだからね?」
「―――ん」

彼女の左手をそっと支えて、薬指にキスを落とす。

「近いうちに買いに行こうか」

もう誰にも邪魔させない。

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