『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

急須を傾け、俺の湯飲みにお茶を注いでくれる。
そんな彼女をじっと見据えていると。

「何の支障もなく、結婚という新しい門出を迎えるだけだと思ってたの」
「……」
「お互いに仕事も順調で、両親とも仲良かったし。性格的な部分も趣味とか食の好みとかも何ら問題も無かったから」
「……」
「だけど、私は彼の……、全てを満たしてあげれてるわけじゃなかった」
「それ、……どういう意味ですか?」
「……フフッ、言葉で説明するのは難しいわね」

自嘲気味に笑う。
その姿が痛々しくて。

「八神くんって、童貞じゃないよね?」
「は?」
「あ、ごめんね、いきなり…」
「……聞かれても答え辛いですけど」

突然何を言い出すかと思えば……。

「今まで、彼に言われるまで自分でも分からなかったんだけど、私……不感症らしい」
「……へ?」
「何がそうなるのか、どうしたらそういうのになるのか、正直分からなくて」
「……どういう意味ですか?」
「好きだとか、愛してるだとか。逢いたい、傍にいたいとか、そんな感情だけでなくて、根本的な部分が欠落してるらしいの」
「……」
「だからね、私が相手じゃ、満たされないって」
「意味わかんねっ、何だよ、それ」
「……ごめんね、おかなしな話して。でも、これが本当の理由なの」
「失礼かもしんないですけど、別れて正解です、それ」
「え?」
「体の相性以前に、そいつ、……先輩の表面しか見てないじゃないですか」
「………」
「感じ方なんて、人それぞれだし。顔や態度に出やすい人もいれば、出にくい人だっていますよ」
「………」
「みんな同じだったら気持ち悪いです」
「っ……」

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