『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
俺の言葉に僅かながらに反応を示した先輩。
取り分けてる手が、一瞬止まった。
ちゃんと聞こえたようだ。
先輩に聞こえるように言ったんですよ?
「うちの会社、結構女子社員多いけど、タイプの人いる~?」
「うーん、どうだろ」
入社して一年半以上経つ。
これまでに社内の人から告白されたのは十人ちょっと。
けれど、先輩以上に惹かれる人はいなかった。
「休みの日は何してるの~?」
「……ゲームとか?」
「何のゲーム?」
「結構何でもやります」
あーこういう質問、マジで怠い。
顔に書いてあるんだよね、“私、結構好みのタイプなんだよね~”って。
相手するのも面倒になって来た。
「先輩」
「ん?」
「二次会行かずに帰っても平気ですか?」
「……ん、大丈夫だと思うけど、体調悪いの?」
「別に体調は悪くないです」
取り分けて貰ったお皿が目の前に置かれ、ビールを一口口にした先輩。
他の人には聞こえないように小声で尋ねた。
「チーフっ、なんか面白い話、無いっすか~?」
既に酔いが回っている加賀 信也さん(二十六歳)が、先輩に絡み始めた。
「面白い話かぁ、あったかな~?」
まともに拾わなくっていいですって。
真面目に考え始める先輩が可愛すぎて、笑みが零れる。
「何年か前に取引先の忘年会に呼ばれてね?その会社の部長さんに、半身浴する?って聞かれたの」
先輩が話し始めると、ガヤガヤしてた会場が急に静かになった。
「あまり半身浴しないタイプなんだけど、夏場の疲れ取る時とかにたまにするから、年に数回程度ですけどって返したの。そしたら、鼻や耳にお湯が入って痛くない?ちゃんと浸かれる?って真顔で言われたんだよね~」