『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
十秒ほどシーンと静まり返ったその場に、どっと笑いが起こった。
「何それ~ッ!!超ウケるんだけどぉ~っ!!」
「ちょっとその人っ、天然なんですかッ?!」
ヤバい、腹痛ぇ。
笑い死にしそう。
「返しに困るでしょ?取引先の偉い人だったんだよ、その人」
「で、璃子さんは何て返したの?」
笑い転げながら、市川先輩が尋ねた。
「右側ですか?左側ですか?って聞き返したよっ、笑いを必死に堪えて」
「さすが、璃子さんっ、返しが天才っ!!」
半身浴って、腰の辺りまで浸かるものだと当たり前に思ってたけど。
右側半分とか、左側半分とか……そんな世界もあるんだって、初めて知った。
「さすが営業部のエース!!勉強になりますっ!!」
「そんなたいそうなものじゃないけどね~、まぁ場数は踏んでるよね、フフッ」
あー笑った顔も可愛い。
むちゃぶりなパスでゴール決めるとか、マジで最高すぎる。
「悪いっ、遅くなった」
「黒川く~んっ!」
「チーフ、遅いっすよ~っ」
「悪い悪い、商談が長引いて」
宣伝営業部の主任(チーフ)黒川 学(三十歳)が遅れてやって来た。
璃子さんと同期で、かなりやり手の営業マン。
体躯がよく、顔立ちもかなり整っている。
女子社員の人気もあり、俺の天敵。
「隣り、いいか?」
「どうぞ~」
ほらね。
先輩の右隣をキープした。
「ビールでいい?」
「お、悪いな」
先輩、自分で注がせりゃいいんですよ、遅れて来たんだから。
空いてるグラスにビールを注ぎ、それを手渡す先輩。
「お疲れさん」
「黒川くんも、お疲れ様」
見せびらかすように乾杯すんな。