『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
先輩は人が良すぎる。
遅れて来た黒川さんにまで取り分けてる。
そういうことするから、奴は勘違いするのに。
「そう言えばさ、来春のチーフ研修、沖縄だって」
「嘘っ、それ本当?」
「うん、今日副社長とたまたま行き会って、そんな話になったから」
「そうなんだぁ」
「お前、沖縄行きたがってただろ」
「うん、一度も行ったことなくて」
何二人で盛り上がってんだよ。
チーフ研修って、三泊四日のやつじゃん。
今年は熱海だったのに……。
会話に入れないし、独特の空気感がある。
入社二年目の俺じゃ、太刀打ちできない鉄壁に囲まれた世界だ。
「そろそろ一次会締めまーすっ!二次会は昨年同様、L‐BOXでしますので、参加者は移動して下さ~い」
幹事の人が声掛けすると、次々を身支度を始める。
「白井はどうするの?」
「う~ん、どうしようかな」
「黒川先輩っ、行きますよ~っ!」
「おぉ、分かったから引っ張るなって」
部下に無理やり立たせられ、脱いだばかりのコートを羽織る黒川さん。
まだ立ち上がらない璃子さんに、一瞬視線を向けた。
けれど、先輩はスマホを見てて、彼の視線に気付いてない。
「市くん、麻里が牛乳買って来てだって」
「あ、悪ぃ。今スマホの充電切れてて」
「バッテリーは?」
「営業車の中」
「もうっ、これ貸してあげるよ」
「お~、助かる、璃子さん」
先輩からモバイルバッテリーを受け取った市川先輩は、それをすぐさま繋げた。
「八神くんは?」
「……帰る」
「じゃあ、私も帰ろうかな」
「え?」
「市くん、私帰るね~」
「お~っ、これ来週返すな」
「いつでもいいよ~」