『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました


一次会の居酒屋を後にし、駅へと向かう。
別に八神くんと抜け出したかったわけじゃない。
だけど、ほんの少しだけ……もう少し話してみたかった。

「先輩」
「……ん?」
「二人で飲み直します?」
「へ?」
「ね?……いいでしょ?」

この“ね?”に弱い。
だって、凄く可愛んだもん。
尻尾がフリフリとしてる感じがして。
妙に懐かれるのが、心地いいとさえ思えてしまう。

素の自分を曝け出したからなのか。
彼からの気持ちを聞いたからなのか。

職場の、それも部下に、性に関するカミングアウト的なことを明らかにしたわけだし。
恥ずかしいという気持ちは当然ある。
だけど、その核なる部分が、未だによく分からなくて。
何がどれだけ恥ずかしいことなのか、靄がかかってる感じで正直曖昧だ。

それについさっき、“泣き顔がセクシーな人”だなんて聞いてしまったから。
八神くんという人物と過ごした時間が、夢じゃなかったんだと実感して。
もう少し、彼と話したいと本気で思い始めてる。

「土日は休みなんだから、少しくらい遅くなっても平気ですよね?」
「………ん」

確かに土日は仕事がない。
休日出勤の予定もないし、もちろんデートだとかそういった類の予定も入ってない。

「バーと居酒屋ならどっちがいいですか?」
「お任せする」
「じゃあ、俺んちで」
「えっ?」

彼の言葉にドキッとした。
これ、この間の“何か、音楽でもかけます”と同じだ。
営業スキルが結構高い。
けれど、それくらいの返しじゃまだまだ青いよ。

「お腹は空いてる方?ちゃんと食べれた?」
「……まぁまぁってとこですかね?」
「じゃあ、うち来る?」
「へ?」

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