『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
どう?
少しは動揺したんじゃない?
五歳も年上の、しかも上司を揶揄うと痛い目見るんだから。
「いいですよ、先輩の家で」
「……何か買ってく?ビールとワインならあるけど、つまみ的なものはあまり無いよ?」
「駅前のスーパーやってると思うから、何か買って行きましょうか」
「……そうだね」
自分から言っておいて、少し緊張する。
だけどこれって、凄くいい機会だと思うから。
彼の気持ちを知るのにも。
自分の足りないものを見つめ直すにも。
もう見て見ないふりして生活するのにも限界があると気付かされた。
あの人と別れて一年、色々考えたけれど、何一つ解決してないから。
八神くんが、カミングアウトした私でもいいと言ってくれた。
私の何がそう思わせるのか、分からないけれど。
和沙が言うように、どこまで彼が本気なのか知りたい。
もう寄り道したり、遠回りする気力はない。
恋愛がしたいと思えない以上、彼の誠意に応えるためにも、真っ向勝負で話し合わないと。
*
二十四時間営業のスーパーでつまみになるようなものを購入して、自宅へと向かう。
「へぇ~、お洒落なマンションですね」
「日当たりだけはいいかな」
「いや、結構いい物件ですよ。駅からも近いし、防犯設備も整ってるし、間取りもお洒落だし」
「そう?」
「はい。ここ、いつから住んでるんですか?」
「……一年前」
「へぇ~」
彼が知りたいことが分かってしまった。
この部屋、彼と住んでたんですか?ってことだ。