『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
「先輩の酔ったとこ、見たことないですけど、酔ったことあります?」
「あるある!それこそ、入社したての頃は、しょっちゅう酔い潰れて。知らないサラリーマンに駅のホームで抱きつかれたこともあるよ」
「は?…何すか、それ」
「お酒の失敗談なんて、腐るほどあるから」
「それ、触れていい話ですか?」
「え?……あー、うん、たぶん」
ちょっと引いたかな?
だけど、営業職してたら、酔い潰れるだなんてあるある的なものだよね。
「別に、見知らぬ人とワンナイトしたとかは無いよ?」
「フッ、……安心しました」
ホッと安堵した彼に、きゅんとする。
「そんなに私のこと、好き?」
「え?……はい」
「どこが好きなの?」
「どこが……」
お酒の力を借りて聞いているわけじゃない。
アルコールは入ってても、酔ってるわけじゃないから。
だけど、真面目な話ができるうちに聞いておきたい。
「前にも話しましたけど、ずっと見てるんです、先輩のこと」
「……ん」
「部署の皆が帰った後に一人で皆の分のアシストしてる姿とか、デスクで声を殺して一人泣いてる姿とか」
「っ……」
「上司としての先輩ももちろん好きですけど、普段余裕な顔して仕事してる先輩が、必死に生きようとしてる姿が魅力的で」
「……」
「ぎゅっと抱きしめたくなるんですよね」
「っ……」
あ、まただ。
私の気持ちを読み解いて、確かめるような視線を向けて来る。
その表情が、とても色っぽくて。
五歳も年下だということを忘れてしまいそう。
振り回されてるなぁ、私。
恋愛初心者ってわけでもないのに、年下の部下に翻弄されてる。