『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

都心から少し離れた郊外の高台にある小さなレストラン。
緑に囲まれ、都心の夜景が一望できるとあって、“予約が取れない”と有名なお店だ。

サプライズで結婚一周年を祝うために、結納を交わした日に予約した。
だから、あの人は私が予約したことすら知らない。

私もすっかり忘れていた。
昨日のスケジュールアラームを見るまでは。

前日にキャンセルしても全額払わなければならない。
特別なメニューで予約をしているから。

予約半年待ちと人気で、特別メニューというのもあって。
キャンセルするのも勿体ないと思った私は、一人で食事をすることにした。

料理にもお店にも、罪はない。
あるとしたら、彼の心を満たせなかった私に罪がある。

海外の三ツ星レストランで十五年料理長をしていたというシェフがつくる料理は、素材の味を最大限に活かした優しい味付け。
結果が全ての営業職で、第一線を張って来た私を労わるように、頬に一筋の雫が伝う。

彼好みのメニュー。
彼が一番好きな銘柄のビンテージ・ロゼ。

消し去ったと思っていた記憶が蘇る。

三年前の展示会で彼と出会った。
自動計量機の最大手企業に勤務する彼は一流大卒、見た目はインテリ系のイケメンで、文句なしのハイスぺ男だった。

当時担当している企業のプランニングに必要な機器を契約するため、頻繁にやり取りしたのがきっかけで交際に発展。
お互いに忙しい時間を縫って、愛を育んでいた。

挙式を一週間後に控えたあの日までは……。

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