『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

デザイン企画部から戻ると、チーフのデスクの椅子にコートが掛けられている。
璃子さん、帰国したんだ。

急な出張で逢えなかった六日間。
慣れない土地と見知らぬスタッフ、大量の業務に時差まであって。
体を労わるメールを送るくらいしかできなくて。
本当は声が聞きたかったけれど、我が儘は言えなかった。

こういう時、年下で部下だということが嫌なくらい痛感する。



久しぶりに送られて来た彼女からのメール。
『何食べさせてくれるの?』

出張に行く前に約束した。
連泊した御礼に、次は俺が奢りますって。

それが今日になったようだ。

彼女のメールの返信は決まってる。
どう反応して来るのか、楽しみだけれど。

『八神 悠真』

さて、どんな返事が来るかな?

会社を出て、待ち合わせ場所のコンビニへと向かう。
すると、すぐさま彼女からの返信が来た。

『それ、美味しいの?』

フフッ、そう来たか。
一瞬動揺して、彼女なりに上手くあしらうつもりで打った姿が目に浮かぶ。

『入手困難らしいですよ』
『それは楽しみね』
『予約入れます?』
『お願いしようかな』

例え冗談でも、俺のことを少しでも考えてくれたんじゃないかって思えて。
仕事人間の璃子さんの心に、少しでも俺のスペースを確保するのに必死だ。

「遅くなって、すみません」
「私もさっき来たところだから」

待ち合わせ場所にいた璃子さんは、色香が駄々洩れな感じで笑顔を俺に向けた。

「お寿司とラーメン、どっちがいいですか?」
「八神 悠真じゃなくて?」
「え?」
「……フフッ、ラーメンにしようかな」

時々璃子さんの返しが上手すぎて、見悶えしてしまう。

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