『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
デザイン企画部から戻ると、チーフのデスクの椅子にコートが掛けられている。
璃子さん、帰国したんだ。
急な出張で逢えなかった六日間。
慣れない土地と見知らぬスタッフ、大量の業務に時差まであって。
体を労わるメールを送るくらいしかできなくて。
本当は声が聞きたかったけれど、我が儘は言えなかった。
こういう時、年下で部下だということが嫌なくらい痛感する。
*
久しぶりに送られて来た彼女からのメール。
『何食べさせてくれるの?』
出張に行く前に約束した。
連泊した御礼に、次は俺が奢りますって。
それが今日になったようだ。
彼女のメールの返信は決まってる。
どう反応して来るのか、楽しみだけれど。
『八神 悠真』
さて、どんな返事が来るかな?
会社を出て、待ち合わせ場所のコンビニへと向かう。
すると、すぐさま彼女からの返信が来た。
『それ、美味しいの?』
フフッ、そう来たか。
一瞬動揺して、彼女なりに上手くあしらうつもりで打った姿が目に浮かぶ。
『入手困難らしいですよ』
『それは楽しみね』
『予約入れます?』
『お願いしようかな』
例え冗談でも、俺のことを少しでも考えてくれたんじゃないかって思えて。
仕事人間の璃子さんの心に、少しでも俺のスペースを確保するのに必死だ。
「遅くなって、すみません」
「私もさっき来たところだから」
待ち合わせ場所にいた璃子さんは、色香が駄々洩れな感じで笑顔を俺に向けた。
「お寿司とラーメン、どっちがいいですか?」
「八神 悠真じゃなくて?」
「え?」
「……フフッ、ラーメンにしようかな」
時々璃子さんの返しが上手すぎて、見悶えしてしまう。