『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

「きゃっ……っ…」

リビングのソファに押し倒された。

「誰が怪我していいって言いました?」
「へ?」

ちょっと、目が怖いんだけど。
真っすぐ見つめて来る瞳は、何かを探ってるような疑ってるような……。

「他には?……他にも怪我したところがあるんですか?」

心配してるだけ?
それでも、ちょっと怖い感じがするんだけど。

「上り坂だったから、前のめりに転んで、手を着いた時に少し打ったけど、手袋してたから怪我はしてない」
「はぁ…」

安堵の溜息を零す彼。
心配してるだけだったんだ。

「そんな余裕な顔してられるのも今だけですよ?」
「え?」
「これ、自分でしたんじゃないですよね?」
「……ん」

再び鋭い視線が向けられ、背筋がゾクッとした。

「手当したの、女性ですか?男性ですか?」
「男の人」
「へぇ~」

しまった!
営業スキルの語彙力、一体どこに行ったのよっ!

彼の視線から逃れられない。
例え無害な嘘でも、彼に吐いたらその先に何かが起こるんじゃないかと思えて、嘘が吐けなかった。

「俺以外の男に、ここ、触らせたんだね?」
「………っ」

冬場の今は普段厚手のタイツを履いているけれど。
さすがに処置して貰うのに、タイツの上からというわけにはいかない。
それは当然のことであって、子供でも分かることなのに。

素足を触らせたと取った彼は、少し怖いくらいの空気を纏っている。
時々彼の言動は、冷や汗がでるくらいドキッとする。

わざとしているのか、素でしているのか、分からない。
けれど、それをほんの少しだけ期待するような私がいる。

だって彼が、私に『女』であることを意識させるから……。

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