『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
一方的に戦力外通告を受けた私は、言い返す言葉もなく終止符を打った。
正直、彼の言う通り、『感じる』ということが分からない。
『好き』や『愛してる』という感情とは別なのだろうか?
逢いたいと思ったし、傍にいて癒された。
仕事で辛い時、彼の存在が支えだったのは間違いない。
なのに、何故……。
鴨肉のコンフィが運ばれて来て、咄嗟に顔を窓の方へと背けた。
二名で予約しているのに、一人で食べている時点で顔を合わせるのも辛いのに。
涙する顔を見られたくない。
すすり泣くまいと必死に堪え、頬杖をつくふりをして頬の涙をそっと拭った、その時。
視界の端に黒い影が見えた。
「俺の誘いを断ったのに、『先約』って、これですか?」
「ッ?!!」
「一人で食事するくらいなら、俺と一緒に食事した方が全然マシじゃないですか」
テーブルの脇に立ち、呆れたような苛立っているような視線を向ける彼。
一時間半ほど前に駅で分かれた、八神くんだ。
「何で、いるの?」
「さぁ、何ででしょ?」
「……どうしてここが分かったの?」
「それ知りたかったら、俺に付き合って下さい」
「えっ……?」
周りの視線も気にせず、彼は私の手を掴んだ。
「ここ、空気悪い」
「っ……」
「出ますよ?」
有無を言わさず席を立たせ、彼は無言で歩き出した。
「ちょっと、どういうことなの?」
店の外へと出ると、踵を返した彼がコートの襟を優しく直してくれる。
「車で来てます。少しドライブしませんか?」
「っ……」
さっきまでのイラついた表情ではなく、凄く優しい目をしている。