『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
真っすぐ射抜いて来るその視線に、これは真摯に対応する案件だと、瞬時に脳が弾き出した。
「そうですね……。人一倍努力してるのに涼しい顔してそれをこなして、一度もその見返りを欲しがらない姿とか」
「……ふぅ~ん」
「ボロボロになりながらも、必死に生きようとしてる姿ですかね」
「……へぇ~」
「まぁ一番は、どんなに辛くても誰にも頼らずに一人涙するところですけど」
「フッ、……俺、お前気に入った」
「え?」
ニヤッと不敵に微笑んだ健人さんは、グビグビッとビールを口にして、畳の上に寝転んだ。
「今まで姉貴が連れて来た男はさ、姉貴のプロフ的なとこしか見てない奴らで。破談になった婚約者もさ、自分の仕事にプラスになる姉貴のスペックに惚れたようなもんだよ」
「え?」
「まぁ、姉貴はそれでも必要としてくれてるアイツにゾッコンだったけど、俺からしたら、いつかふとした瞬間に捨てられるんだろうな〜って思ってた」
「……」
「まっ、俺の勘が的中したんだけど、結果的によかったと思ってる」
凄い冷静且つ客観的に見てる健人さんに安心感が湧く。
「姉貴の夢、知ってる?」
「いえ」
「うちは見ての通り老舗旅館だからさ、家族旅行を一度もした事がないんだよね」
「……」
「年中無休だから、家族総出で出かけたりするのは無理だし。だから、自分の家族が出来たら、近場でいいから家族旅行するのが夢なんだよ」
「っ……」
「これ、歴代の彼氏にも教えてない企業秘密な?」
ごろんと寝返りを打った健人さんが、口元に人差し指を当てた。