『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

姿は見えないけれど、一方的な態度に部外者の私ですらイラっとする。

「いい迷惑」
「あ、彼女さん来てるの?」
「お前に関係ねぇだろ」
「上がってもいい?ご挨拶した~いっ!」
「は?お前、マジで頭ぶっ飛んでんな」
「えー、普通だよ~」
「お前が普通なら、病院要らねーよ」
「ひどーいっ」
「帰れ、っつーか、頼むから帰ってくれ」

玄関にある靴で私が来ていることはバレてしまったようだ。
どんな理由で別れたのかは分からないが、八神くんの態度からして、今はもう未練は無さそう。
初めて耳にする冷徹な態度にドキッとしながらも、ホッとする自分がいる。

「すみません、管理室ですか?玄関に不審者がいるんですけど。五〇一号室です」

え……、マンションの管理室に連絡したの?
予想もしない展開に半開きのドアから視線が外せない。
何やら必死に事情を説明していて、すぐさまドアがガチャッと閉まった音がした。

「ごめん、璃子さんっ」
「……森野さん?」
「え、……何で分かったの?」
「声に聞き覚えがあって」
「……いや、そうじゃなくて、何で“森野”だって知ってんのかってことなんだけど」
「一昨日、部長から新規依頼を任されたの。その取引相手が森野商事」
「………」
「私の勘だけど「たぶん、合ってる。璃子さんの勘」
「……そっか」

初めて見た。
顔面蒼白の八神くんを。

ダイニングテーブルの横で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「大丈夫?」
「いや、大丈夫じゃない」
「森野さんって、どんな子なの?」
「………一言で言ったら、危険な奴」
「……危険?」
「病的でイカれてて、会話が成り立たないくらいぶっ飛んでる」
「……なるほど」

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