『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
正直に答えるべきか。
それとも、軽くスルーすべきか。
返しに戸惑っていたら、直ぐに下の階にエレベーターが止まった。
ドアが開き、黒川さんが降りる。
「黒川チーフも、好きですよね」
ピタッと足が止まったのを見据え、ドアが静かに閉まった。
――――黒川さん“も”
俺なりに出した答えだ。
もう我慢したり、引け目を感じたりするのは止める。
少なくても、黒川チーフよりは璃子さんに一歩近いところにいるはずだから。
*
「はい、戦略営業部 企画室 八神です」
「あっ、八神くん?」
「り、…チーフ?」
「ちょっと出先で足痛めちゃって、今日はこのまま退社するから、ホワイトボードに書いておいて貰える?」
「えっ、足痛めたって、どこを?どれくらい?酷いんですか?」
「えっと、まだ詳しいことは分からないの。これから病院行こうかと思って…」
「今どこにいるんですか?俺、そこに行きます!」
「え、いいよ~!まだ就業中だし。それに大したことないから、ホント」
「いや、そういう問題じゃ」
「本当に大丈夫だから、ね?他のみんなにも迷惑かけちゃうから、外回りから直帰扱いにしといてくれるかな」
「……分かりました。病院終わったら連絡下さい」
プツッと通話が切れた。
本当に甘えることも頼ることもしない人だ。
就業中だから、俺のことなんて部下としか思ってないんだろうけど。
“足を痛めた”と聞いたら、すぐさまあなたの元へ飛んで行きたいのに。
「はぁぁああぁぁぁ」
超激務で部署のスタッフが出払っているのが有難い。
こんな動揺してる姿、情けねぇ。