『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

璃子さん宅のドアホンに黒川チーフの姿が。
何でコイツが璃子さんちに来たの?

市川先輩ならまだしも、コイツは無理。
今の璃子さんの状態で、コイツを家に上げるとか……マジで無理。

「ちょっと、出てきますね」
「えっ、誰だったの?お隣さん?」

お隣の佐藤さん(美容師、女性・三十二歳)は、璃子さんが通うサロンのスタイリスト。
だから、佐藤さんなら何ら問題はない。

璃子さんににこっと笑顔をプレゼントして、玄関へと向かう。
意を決してドアを開ける。

「こんばんは。三日ぶりですね、黒川チーフ」
「えっ、……は?何でお前がいんの?」
「さぁ、何ででしょう?」
「白井は?足怪我したって部長から聞いたんだけど」

部長、余計なことを……。

「大丈夫ですよ」
「お前が大丈夫って言っても、安心でき「大丈夫です、黒川チーフがご心配なさらなくても」
「っ……、お前…」
「黒川チーフに“お前”呼ばわりされるいわれはないんですが、本当に大丈夫です。チーフの世話役は間に合ってますので」
「っ……」

玄関の壁に手をついて、一歩も中に入れないようにする。

「ここで大声出して先輩呼ぼうとかしないですよね?ご近所迷惑になったら、先輩に迷惑がかかりますよ?」
「っ……」
「今日のところはお引き取り下さい」
「……分かったよ。じゃあ、これだけ、白井に渡して」
「はい、お預かりします」
「おまっ……八神、いい性格してんな」
「よく言われます」
「フッ」
「黒川チーフ」
「あ?」
「味噌汁の具はなめこが一番好きですよ、璃子さん」
「ッ?!!」
「おやすみなさい」

バタンと玄関ドアを閉めた。
黒川チーフから手渡されたビニール袋の中身はレトルト食品やカットフルーツなど。
即席の味噌汁が一番上にあり、それが目に付いた。

少しは牽制できただろうか。

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