『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
「お疲れ様です、八神です。市川先輩ですか?」
「おぅ、どうした?」
一月から別のチームになったとはいえ、同じ営業部所属の市川先輩に電話をかける。
「すみません、松雪チーフの連絡先、教えて貰えませんか?」
「和沙さんの?」
「はい」
「いいけど、……お前、璃子さん狙いだったんじゃねーの?」
「え?」
「……いや、まぁ、いいんだけど」
俺が璃子さんを好きなこと、やっぱり勘づかれてたらしい。
「あとで珈琲でも奢れよ?」
「はいっ」
「じゃあ、メール入れるな?」
「すみません」
璃子さんの体調不良を市川さんが知ってるとは思えなかった。
俺との関係を秘密にしてるくらいだから。
けれど、松雪チーフは別だ。
あの人なら、何でも相談してそうだ。
市川先輩から送られて来た電話番号にすぐさまかける。
「夜分にすみません、八神です。市川さんから番号教えて貰いました」
「こんばんは。さっき市くんからメール来た」
「……突然かけてすみません。あの、璃子さんのことでお聞きしたい事があって」
「うん、かかって来ると思ってた」
「え?」
予想もしない返しに、一瞬戸惑ってしまった。
「璃子さんと連絡が取れないんですけど、倒れてたりしませんよね?」
「……ん、大丈夫よ」
「今璃子さんがどこにいるのか、ご存知ですか?」
「……ん」
「どこにいるんですか?」
「………ごめんね」
「璃子さんから口止めされてるんですか?」
「…ん」
「……俺、そんなに頼りないですかね」
松雪チーフに愚痴っても仕方ないのは分かってる。
だけど、やり場のない感情がどうにも抑えられなくて。