『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

「すみませんっ、**病院まで大至急で!!」

マンション前の大通りを横切ろうとしたタクシーを捕まえ、松雪チーフから送られて来た場所へと向かう。

どういうこと?
数日間、体調不良で休むって、病院で過ごすってこと?
それって、入院ってことじゃん。

冷や汗が流れる。
疲労骨折したとメールで知らされた時よりも、心臓の音が煩い。

本人から連絡がないというのが決定打のようなもので。
未だかつてない動揺に、心臓が破裂しそうなほど焦る。



**病院の総合受付で問い合わせ、面会時間終了の十五分前に病室へと。

六階の個室。
一応、ナースステーションに面会希望の旨を伝え、部屋へと案内された。

深呼吸してドアを開けると、点滴をしながら窓の外を眺める璃子さんがいた。

「何してるんですか、こんなところで」
「っ?!……八神、…くん」
「俺、ストーカーみたいに、めちゃくちゃメールと電話したんすよ?」
「……ごめんね」
「入院するならするで、する前に連絡くらいできたでしょ」
「……ん」

ダメだ。
顔を見たら、責める言葉しか出て来ない。

弱り切ってる璃子さんにかける言葉じゃないことくらい分かってるのに。

「ごめん」

ベッドサイドに立ち、点滴が刺さっている手をそっと握る。

「文句が言いたくて来たんじゃないのに」
「……ん」

きゅっと優しく握り返される手。
ひんやりしてて、不安になる。

「逢いたかった」

それ以外に伝えたい言葉はない。

璃子さんが目の前からいなくなることがこんなにも辛いとは思ってもみなくて。
好きだとか、愛してるだなんて言葉で璃子さんを縛るだなんてできない。

ただただ、俺が傍にいたいだけ。
俺を好きじゃなくても構わない。
他の誰かを好きでも構わない。

俺が璃子さんを好きなら、それでいい。

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