初恋タイムトラベル
「飲み足りないかと思って、親父のコレクションからくすねてきたんだ」

 近所のタコ公園の、タコの形をした遊具の上で、ケイタがニシシと笑った。先ほど家から持ってきた物の正体は、木箱に入った高級そうなお酒と、スルメイカだった。

 なんで日本酒なの?と尋ねると、一番うまそうだったからという、単純明快な答えが返ってくる。そういえば、そういうやつだった。

「コップとかないのー?」
「んなもんいらねーだろ」

 ケイタは日本酒の瓶に直接口をつけて飲みはじめた。豪快すぎて呆れてしまう。

「うめぇー! 美香も飲んでみろよ」

 目をキラキラさせながら、高級日本酒の瓶を抱える幼馴染の姿が可笑しくてたまらない。
 外で飲むなら、安い缶ビールとか、缶チューハイとかでいいのに。こんなとこで飲むのに相応しくないお酒だということは、バカな私にだって分かる。それでも勧められたからには……

「いただきまーす」

 酒瓶を受け取ってちょっとだけ口をつける。間接キス、なんてことはもう気にならない歳になってしまった。

「美味しい!」

 口に含んだ瞬間、芳醇な香りが鼻から抜けていく。しかし後味はすっきりとしていて、軽く飲めてしまうお酒だ。こんなのすぐ酔っ払ってしまいそう。

「ねぇさん、いける口ですねー」
「あはは」

 こんな風に日本酒の瓶を片手にしていると、とんでもなく大酒飲みになったような気分だ。

「子供の頃は、駄菓子屋でジュースとかお菓子とか買って、よくここで食べたよね」
「おー。それが今では、スルメと純米大吟醸」
「10年ってコワーイ」

 2人でお酒を飲みながら沢山話した。ケイタのほうが多く飲んでいるのに、全く酔っ払う気配がなく、私1人がペラペラと上機嫌に話していた。ケイタは昔から聞き上手なのだ。……ちゃんと聞いてくれているかは謎だけど。

「ねぇねぇ、ブランコしようよ」
「おー、どっちが高くまでいけるか勝負だ!」

 2人は完全に童心に戻った。ブランコを漕ぎ、ジャングルジムに登り、鉄棒で逆上がりをした。

楽しい
楽しい
懐かしい

 馬鹿みたいに騒ぐ。酔いが回って気分が悪くなりそうだったが、そんなことはどうでも良かった。そうこうしているうちに終電の時間が迫ってくる。どんどん帰りたくなくなってしまう。私は時計を何度も何度も確認した。
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