そんな理由で婚約破棄? 追放された侯爵令嬢は麗しの腹黒皇太子に溺愛される
10 美しすぎる男性の正体は?
「お前に騙されたと訴えてくる者が一人でもいたら次は容赦しないぞ。舌をぬいて二度と口をきけないようにしてやろう」
「ひっ」
思わずその残酷な表現に後ずさった。
「あぁ、冗談だよ。ほんのジョークなんだ。驚かせてすまないね。もちろんわたしはそんな残酷なことはしないさ。そこの君もそう思うだろう?」
「そうですねぇ。残酷なこと・・・・・・しない・・・・・・えぇっと、しないように見えますが、するようにも見えるというか。あのぉ、かなり身体を鍛えていらっしゃいますね?」
話を振られたアデラインは困ったように首を傾げる。
「まぁな。健やかな身体に健全な心は宿ると思う。ところで、どこに小屋を建てればいいのだろうか? この木材をそこに持っていかないといけないし、他にもいろいろ材料がいる。で、鶏はもういるのかい?」
私はこれからいろいろ揃えて小屋は少しづつ建て、仕上がったところで鶏を飼おうとしていたことを話す。
「なら、さっさと建ててしまおう。場所はどこだい?」
「あの国境にあるセント・ニコライ修道院なのです。そこの敷地に小屋を建てて家畜を少しばかり飼いたくてここに来たんです」
私の言葉にびっくりしたように沈黙する男性。なぜ、そのようなことをするのかと訊ねてきて、そんな必要は少しもないことを力説しだした。
「あの修道院は帝国に保護されている。充分な食料や生活の必需品などは届いているはずだが。まさか、滞っているというわけではあるまいな? けしからん役人が懐におさめたとか? そんな奴を捕まえてムチで打ってやろう」
このすばらしく美しくも、たくましい身体をもつ美丈夫は、やっぱり残酷なことを平気でしそうな気がする。ただ、顔立ちが綺麗なので一瞬冗談なのかと思うのだけれど、その空の色を思わす瞳には、揺らぐことのない決意のようなものがにじんでいた。
「舌をぬくとかムチで打つとかお嬢様の前でおっしゃらないでください。私のお嬢様はそのような言葉に慣れていないのです」
「すまないね。ほんの冗談さ。ほんとうのところ、虫も殺さない平和主義者だ」
端正な顔立ちと完璧な肉体をそなえた男性がにっこりと微笑むと、さらに輝きが増してその破壊力が凄まじい。けれど、顔の良い男性にはもう騙されない。最初は優しかったレオナード王太子殿下だって、急に冷たくなって背中を向けた。長い間婚約者だった男性ですら信じられないのに、この目の前の方は今会ったばかりよ。
「とにかく、騙されないように守っていただいて、ありがとうございました。ですが、小屋を建てるのは自分達でなんとかできます。もう一度、修道院に戻って出直してまいります。院長様と別の店に行けば大丈夫だと思いますわ」
「え? あの院長と? ますますダメだろう。彼女はずっと修道院にいて、外の世界にうとい。すぐに騙されてとんでもない高価な鶏小屋ができるさ」
まるで修道院長と旧知の仲のように振る舞う彼に不信感がつのる。もしかしたら、彼こそが詐欺師なのかも。怖くなって逃げようとすれば、追いかけてきて呑気にこんなことを言ってきたわ。
「お茶でもしないか? ちょうどのどが渇いたところだった。ご馳走するから一緒に・・・・・・」
「結構です!」
私はアデラインを連れて駆けだしていた。世の中には善人のふりをして騙す人がいると、そう言えば聞いたことがある。わかった、この方はきっとあの店主の仲間なのかもしれないわ。わざと店主に注意をして信用させるという手口よ。
「アデライン。あの方は詐欺師の一味だわ。早く逃げましょう!」
「え、お嬢様。どう見ても違うかと。だって、ほら通りにいる人々が皆手を振っていますよ。まるで英雄に会えたように喜んでいます」
振り返って確かめると、彼は手を振る人々に笑顔でこたえていた。子供にはその目線までしゃがみ込み、頭を撫でて優しく話しかけ、その子供は緊張しながらも憧れの眼差しを向けている。話しかけられた人々は皆嬉しそうに顔をほころばす。
まさか・・・・・・
「ひっ」
思わずその残酷な表現に後ずさった。
「あぁ、冗談だよ。ほんのジョークなんだ。驚かせてすまないね。もちろんわたしはそんな残酷なことはしないさ。そこの君もそう思うだろう?」
「そうですねぇ。残酷なこと・・・・・・しない・・・・・・えぇっと、しないように見えますが、するようにも見えるというか。あのぉ、かなり身体を鍛えていらっしゃいますね?」
話を振られたアデラインは困ったように首を傾げる。
「まぁな。健やかな身体に健全な心は宿ると思う。ところで、どこに小屋を建てればいいのだろうか? この木材をそこに持っていかないといけないし、他にもいろいろ材料がいる。で、鶏はもういるのかい?」
私はこれからいろいろ揃えて小屋は少しづつ建て、仕上がったところで鶏を飼おうとしていたことを話す。
「なら、さっさと建ててしまおう。場所はどこだい?」
「あの国境にあるセント・ニコライ修道院なのです。そこの敷地に小屋を建てて家畜を少しばかり飼いたくてここに来たんです」
私の言葉にびっくりしたように沈黙する男性。なぜ、そのようなことをするのかと訊ねてきて、そんな必要は少しもないことを力説しだした。
「あの修道院は帝国に保護されている。充分な食料や生活の必需品などは届いているはずだが。まさか、滞っているというわけではあるまいな? けしからん役人が懐におさめたとか? そんな奴を捕まえてムチで打ってやろう」
このすばらしく美しくも、たくましい身体をもつ美丈夫は、やっぱり残酷なことを平気でしそうな気がする。ただ、顔立ちが綺麗なので一瞬冗談なのかと思うのだけれど、その空の色を思わす瞳には、揺らぐことのない決意のようなものがにじんでいた。
「舌をぬくとかムチで打つとかお嬢様の前でおっしゃらないでください。私のお嬢様はそのような言葉に慣れていないのです」
「すまないね。ほんの冗談さ。ほんとうのところ、虫も殺さない平和主義者だ」
端正な顔立ちと完璧な肉体をそなえた男性がにっこりと微笑むと、さらに輝きが増してその破壊力が凄まじい。けれど、顔の良い男性にはもう騙されない。最初は優しかったレオナード王太子殿下だって、急に冷たくなって背中を向けた。長い間婚約者だった男性ですら信じられないのに、この目の前の方は今会ったばかりよ。
「とにかく、騙されないように守っていただいて、ありがとうございました。ですが、小屋を建てるのは自分達でなんとかできます。もう一度、修道院に戻って出直してまいります。院長様と別の店に行けば大丈夫だと思いますわ」
「え? あの院長と? ますますダメだろう。彼女はずっと修道院にいて、外の世界にうとい。すぐに騙されてとんでもない高価な鶏小屋ができるさ」
まるで修道院長と旧知の仲のように振る舞う彼に不信感がつのる。もしかしたら、彼こそが詐欺師なのかも。怖くなって逃げようとすれば、追いかけてきて呑気にこんなことを言ってきたわ。
「お茶でもしないか? ちょうどのどが渇いたところだった。ご馳走するから一緒に・・・・・・」
「結構です!」
私はアデラインを連れて駆けだしていた。世の中には善人のふりをして騙す人がいると、そう言えば聞いたことがある。わかった、この方はきっとあの店主の仲間なのかもしれないわ。わざと店主に注意をして信用させるという手口よ。
「アデライン。あの方は詐欺師の一味だわ。早く逃げましょう!」
「え、お嬢様。どう見ても違うかと。だって、ほら通りにいる人々が皆手を振っていますよ。まるで英雄に会えたように喜んでいます」
振り返って確かめると、彼は手を振る人々に笑顔でこたえていた。子供にはその目線までしゃがみ込み、頭を撫でて優しく話しかけ、その子供は緊張しながらも憧れの眼差しを向けている。話しかけられた人々は皆嬉しそうに顔をほころばす。
まさか・・・・・・