そんな理由で婚約破棄? 追放された侯爵令嬢は麗しの腹黒皇太子に溺愛される
16 甘い甘いヴァルナス皇太子殿下
私の雪のように白かった髪が緑に変わっていく。少しずつ濃くなっていくその緑は艶やかな輝きを増し、さわやかな新緑の色に染まった。ヴァルナス皇太子殿下はこの不思議を見ても不気味がるどころか、私を抱きかかえながら心底心配している。
「痛いところはないか? 気分は大丈夫か? すぐに医者を呼ぶ。大丈夫だ、俺がついている」
修道院長室に私を抱きかかえたまま入室すると、呆気にとられている院長にキッパリと宣言した。
「俺の最愛を見つけた。しばらくはここで預かってくれ。それから医者を至急呼ぶんだ。髪が緑に変わった。こんなことがあるのか? 大神官も呼べ。俺の大事な女性になにかあったら、生きていられん!」
え? そこまでなの? 番って・・・・・・怖い?
私はまだこのヴァルナス皇太子にそこまでの気持ちはない。綺麗で優しい男性だとは思うけれど、さきほど会ったばかりだから、気持ちの温度差が凄まじい。
「大丈夫だ。こんな現象は初めて見たが体調に変化がないなら、さなぎが蝶になったり蛇の脱皮のようなものだろう」
蛇の脱皮? 私は思わず笑ってしまう。小さな蛇が懸命に脱皮するところが頭に浮かんだから。
「ヴァルナス皇太子殿下、私のお嬢様を蛇に例えるのはお止めください!」
アデラインはかなりグロテスクな蛇を想像したみたい。不服そうに顔をしかめた。ヴァルナス皇太子殿下は不敬なアデラインに怒るどころか、申し訳なさそうに私に謝ってきた。
「確かにこんな可愛いステフを蛇に例えるなんて俺としたことが迂闊だった。すまない、ステフ。君はなにに例えたら良いだろう」
本気で悩むヴァルナス皇太子殿下が不思議だった。レオナード王太子殿下からは、このように謝られたことなど一度もなかった。
「私は可愛くなんてないです。だって婚約者に捨てられたのですから」
つい愚痴めいた言葉が口からこぼれる。
「ほぉーー。婚約者がいたのか? そいつを好きだったのか? 今でも好きか?」
室内の気温が急激に下がったかのように、ピリピリとした空気に包まれる。
「好き・・・・・・いっときはそう思っていましたが、今は好きではありません」
「そうか、それなら良い。今が好きではないなら、その男を思い出すことはやめろ。考えても時間の無駄だ。ステフは俺のことだけを考えていればいい」
険しい顔付きでいた彼が、穏やかに微笑んで頭を優しく撫でる。こんなにもストレートに好意を表現してくださる男性が初めてで、わかりやすい心の動きに少しだけ安堵する。レオナード王太子殿下はなにを考えていらっしゃるのかわからないことがよくあった。いつもこちらが機嫌を損ねないように気を配っても、気づかぬところで怒っているのよ。
でも、このヴァルナス皇太子殿下は違うみたい。
「私がすることで、ヴァルナス皇太子殿下のご機嫌が悪くなることってあるのかしら」
心の声がうっかり口をついてでた。
「それはひとつしかないな。他の男と浮気をすることだ。話やダンスや社交界での常識の範囲内なら問題ない。しかし、愛人関係とか恋人関係なんてものを認めるつもりはないぞ。俺も絶対にしないと約束する」
「愛人関係・・・・・・そのようなものは必要ありません。私は心から愛してくださる男性が一人いれば、それで充分幸せなのです」
「そうか。だったら俺の答えはいつでも上機嫌だ。ステフがなにをしても、いつも笑っていられるさ。俺達は価値観があうし相性は最高だ」
喜びに満ちた表情で笑いかけられて思わずコクリとうなづけば、抱きしめられて子供をあやすように背中をポンポンと撫でられた。この広くてたくましい腕のなかはとても居心地が良い。
やがて、大神官様がいらっしゃり、続々と皇家の騎士達や侍女達が到着する。
そうして、私を見た大神官様は・・・・・・膝をつき頭を床にこすりつけたのだった。
「痛いところはないか? 気分は大丈夫か? すぐに医者を呼ぶ。大丈夫だ、俺がついている」
修道院長室に私を抱きかかえたまま入室すると、呆気にとられている院長にキッパリと宣言した。
「俺の最愛を見つけた。しばらくはここで預かってくれ。それから医者を至急呼ぶんだ。髪が緑に変わった。こんなことがあるのか? 大神官も呼べ。俺の大事な女性になにかあったら、生きていられん!」
え? そこまでなの? 番って・・・・・・怖い?
私はまだこのヴァルナス皇太子にそこまでの気持ちはない。綺麗で優しい男性だとは思うけれど、さきほど会ったばかりだから、気持ちの温度差が凄まじい。
「大丈夫だ。こんな現象は初めて見たが体調に変化がないなら、さなぎが蝶になったり蛇の脱皮のようなものだろう」
蛇の脱皮? 私は思わず笑ってしまう。小さな蛇が懸命に脱皮するところが頭に浮かんだから。
「ヴァルナス皇太子殿下、私のお嬢様を蛇に例えるのはお止めください!」
アデラインはかなりグロテスクな蛇を想像したみたい。不服そうに顔をしかめた。ヴァルナス皇太子殿下は不敬なアデラインに怒るどころか、申し訳なさそうに私に謝ってきた。
「確かにこんな可愛いステフを蛇に例えるなんて俺としたことが迂闊だった。すまない、ステフ。君はなにに例えたら良いだろう」
本気で悩むヴァルナス皇太子殿下が不思議だった。レオナード王太子殿下からは、このように謝られたことなど一度もなかった。
「私は可愛くなんてないです。だって婚約者に捨てられたのですから」
つい愚痴めいた言葉が口からこぼれる。
「ほぉーー。婚約者がいたのか? そいつを好きだったのか? 今でも好きか?」
室内の気温が急激に下がったかのように、ピリピリとした空気に包まれる。
「好き・・・・・・いっときはそう思っていましたが、今は好きではありません」
「そうか、それなら良い。今が好きではないなら、その男を思い出すことはやめろ。考えても時間の無駄だ。ステフは俺のことだけを考えていればいい」
険しい顔付きでいた彼が、穏やかに微笑んで頭を優しく撫でる。こんなにもストレートに好意を表現してくださる男性が初めてで、わかりやすい心の動きに少しだけ安堵する。レオナード王太子殿下はなにを考えていらっしゃるのかわからないことがよくあった。いつもこちらが機嫌を損ねないように気を配っても、気づかぬところで怒っているのよ。
でも、このヴァルナス皇太子殿下は違うみたい。
「私がすることで、ヴァルナス皇太子殿下のご機嫌が悪くなることってあるのかしら」
心の声がうっかり口をついてでた。
「それはひとつしかないな。他の男と浮気をすることだ。話やダンスや社交界での常識の範囲内なら問題ない。しかし、愛人関係とか恋人関係なんてものを認めるつもりはないぞ。俺も絶対にしないと約束する」
「愛人関係・・・・・・そのようなものは必要ありません。私は心から愛してくださる男性が一人いれば、それで充分幸せなのです」
「そうか。だったら俺の答えはいつでも上機嫌だ。ステフがなにをしても、いつも笑っていられるさ。俺達は価値観があうし相性は最高だ」
喜びに満ちた表情で笑いかけられて思わずコクリとうなづけば、抱きしめられて子供をあやすように背中をポンポンと撫でられた。この広くてたくましい腕のなかはとても居心地が良い。
やがて、大神官様がいらっしゃり、続々と皇家の騎士達や侍女達が到着する。
そうして、私を見た大神官様は・・・・・・膝をつき頭を床にこすりつけたのだった。