そんな理由で婚約破棄? 追放された侯爵令嬢は麗しの腹黒皇太子に溺愛される
30 ヴァル、助けて!
いよいよ結婚式当日、私は純白のウェディングドレスを身にまとう。あまりの幸福感に思わず嬉しい吐息が漏れた。ルコント王国の侯爵令嬢に生まれて、結婚とは家と家との結びつきを深めるもので、好いた男性の妻になれるなんて夢にも思わなかった。
ところが今はどう? 大好き、と思える男性に心の底から望まれているし、それが本当にありがたいことだと実感している。誰もが私にお祝いの言葉を朗らかな笑顔とともに口にするなか、執拗な粘ついた視線を最前列から感じた。ちらりとそちらを向けば、ルコント王国の国王と目があった。ニヤリと笑った顔にどう反応していいのかわからない。
「ヴァル」
今ではヴァルナス皇太子殿下のことをこう呼んでいる。バージンロードを歩きヴァルナス皇太子殿下の手を取った時に呼びかけた。
「ん? どうした? 緊張しているのか? 大丈夫だ、俺がいるからなにも心配ない」
いつもの魔法の言葉だ。『俺がいるからなにも心配ない。すべてうまくいく』これを言われただけで、私はホッとする。その自信に満ちた表情と言葉は、決して私を裏切ることがないことがわかっているから。
「えぇ。ヴァルがいれば、なにも悪いことは起こらないわ」
「もちろんだ。さぁ、誓いの言葉を」
私は彼と神様とここに居並ぶ貴族達の前で誓う。生涯、ヴァルだけを愛し彼の為に尽くし、素晴らしい家庭をつくることを。彼もまた私だけを愛し慈しみ守ることを誓った。
唇を重ね合わせると、今まで生きたなかで一番の幸せな瞬間に、ふわふわと気持ちが浮き立った。私は彼の為に生まれてきたんだ、そう心から信じられる。これがどんなに幸せなことか、貴族の私にはわかっている。だから嬉しくて涙が頬を伝わった。
「綺麗だ。その涙も愛らしい顔も綺麗な身体もぜんぶ俺のものだ」
蕩けるような笑顔でささやかれて、頬を染めてうなづいた。俺のもの、この表現を、もしヴァル以外の男性に言われたら身の毛がよだつと思う。でも彼にささやかれると、頬が緩みほっこりと心が温まる。これが愛、なんだわ。
式が終わりその後の祝饗宴では豪華な食事が振る舞われた。皆、上品にかつ優雅に会話を楽しみながら堪能していたけれど、ルコント国王のテーブルだけは悪目立ちしていた。バーバラ王太子妃の食事マナーが悪すぎたし、キャサリン王妃は終始料理に不満の声を漏らしていたからよ。それにずっと私を見つめるルコント国王の視線に、ぞくっと背筋が寒くなった。
「どうした? 気分でも悪いのか? ルコント国王か? ふむ、あいつの目つきは気に入らないな。俺のステフにあのような視線を向けるだけで万死に値する。あの目が二度とステフを汚さないように見えなくしてやろうか」
「ヴァル? 落ち着いて、私はなにもされてないわ。だから、そんな怖いこと言わないで」
「あぁ、もちろん、冗談さ」
ヴァルはたまに怖い冗談を言うけれど、私が嫌がることは決してしない。だから私は何度も彼に言った。人を罰する時には実際に許しがたい大罪を犯したときでないといけないと。彼はもちろんわかっているよ、と笑った。
それから三日間ほどルコント国王達は帝国に滞在し手厚くもてなされた。彼らが帰国する前夜、私がアデラインと宮殿内の図書室で調べ物をしていると、扉の前で争うような物音がした。
やがて図書室に入って来た人物はルコント国王とその部下達だった。扉の前で倒れているのは私の専属護衛騎士達だ。
「ふははは。ブリュボン帝国の騎士はあまりにも弱い。さぁ、ステファニー。お前は祖国に帰るのだ。儂の側妃になり子供をたくさん生め! 我が国に緑の奇跡を持つ者が増えルコント王国は栄え、この帝国をもいずれ支配するようになるのだ」
私の手をぬちゃりと湿ったルコント国王の手が触れた。
「ひっ。ヴァル! ヴァル!」
声の限りに叫んでも不思議と誰も駆けつけてこない。
おかしい・・・・・・だいたいが、私を守っていたのはこの帝国でも腕利きの騎士達だ。ルコント王国の騎士に簡単に倒されるわけがない。
ルコント国王が私を馬車に無理矢理押し込めようとしたところで・・・・・・
ところが今はどう? 大好き、と思える男性に心の底から望まれているし、それが本当にありがたいことだと実感している。誰もが私にお祝いの言葉を朗らかな笑顔とともに口にするなか、執拗な粘ついた視線を最前列から感じた。ちらりとそちらを向けば、ルコント王国の国王と目があった。ニヤリと笑った顔にどう反応していいのかわからない。
「ヴァル」
今ではヴァルナス皇太子殿下のことをこう呼んでいる。バージンロードを歩きヴァルナス皇太子殿下の手を取った時に呼びかけた。
「ん? どうした? 緊張しているのか? 大丈夫だ、俺がいるからなにも心配ない」
いつもの魔法の言葉だ。『俺がいるからなにも心配ない。すべてうまくいく』これを言われただけで、私はホッとする。その自信に満ちた表情と言葉は、決して私を裏切ることがないことがわかっているから。
「えぇ。ヴァルがいれば、なにも悪いことは起こらないわ」
「もちろんだ。さぁ、誓いの言葉を」
私は彼と神様とここに居並ぶ貴族達の前で誓う。生涯、ヴァルだけを愛し彼の為に尽くし、素晴らしい家庭をつくることを。彼もまた私だけを愛し慈しみ守ることを誓った。
唇を重ね合わせると、今まで生きたなかで一番の幸せな瞬間に、ふわふわと気持ちが浮き立った。私は彼の為に生まれてきたんだ、そう心から信じられる。これがどんなに幸せなことか、貴族の私にはわかっている。だから嬉しくて涙が頬を伝わった。
「綺麗だ。その涙も愛らしい顔も綺麗な身体もぜんぶ俺のものだ」
蕩けるような笑顔でささやかれて、頬を染めてうなづいた。俺のもの、この表現を、もしヴァル以外の男性に言われたら身の毛がよだつと思う。でも彼にささやかれると、頬が緩みほっこりと心が温まる。これが愛、なんだわ。
式が終わりその後の祝饗宴では豪華な食事が振る舞われた。皆、上品にかつ優雅に会話を楽しみながら堪能していたけれど、ルコント国王のテーブルだけは悪目立ちしていた。バーバラ王太子妃の食事マナーが悪すぎたし、キャサリン王妃は終始料理に不満の声を漏らしていたからよ。それにずっと私を見つめるルコント国王の視線に、ぞくっと背筋が寒くなった。
「どうした? 気分でも悪いのか? ルコント国王か? ふむ、あいつの目つきは気に入らないな。俺のステフにあのような視線を向けるだけで万死に値する。あの目が二度とステフを汚さないように見えなくしてやろうか」
「ヴァル? 落ち着いて、私はなにもされてないわ。だから、そんな怖いこと言わないで」
「あぁ、もちろん、冗談さ」
ヴァルはたまに怖い冗談を言うけれど、私が嫌がることは決してしない。だから私は何度も彼に言った。人を罰する時には実際に許しがたい大罪を犯したときでないといけないと。彼はもちろんわかっているよ、と笑った。
それから三日間ほどルコント国王達は帝国に滞在し手厚くもてなされた。彼らが帰国する前夜、私がアデラインと宮殿内の図書室で調べ物をしていると、扉の前で争うような物音がした。
やがて図書室に入って来た人物はルコント国王とその部下達だった。扉の前で倒れているのは私の専属護衛騎士達だ。
「ふははは。ブリュボン帝国の騎士はあまりにも弱い。さぁ、ステファニー。お前は祖国に帰るのだ。儂の側妃になり子供をたくさん生め! 我が国に緑の奇跡を持つ者が増えルコント王国は栄え、この帝国をもいずれ支配するようになるのだ」
私の手をぬちゃりと湿ったルコント国王の手が触れた。
「ひっ。ヴァル! ヴァル!」
声の限りに叫んでも不思議と誰も駆けつけてこない。
おかしい・・・・・・だいたいが、私を守っていたのはこの帝国でも腕利きの騎士達だ。ルコント王国の騎士に簡単に倒されるわけがない。
ルコント国王が私を馬車に無理矢理押し込めようとしたところで・・・・・・