そんな理由で婚約破棄? 追放された侯爵令嬢は麗しの腹黒皇太子に溺愛される

31 ヴァルはわざと私を狙わせた?

「俺の最愛をどこに連れていくつもりだ? ブリュボン帝国の皇太子妃を誘拐するとはたいした度胸だ。現行犯だ、こいつを捕らえて牢にぶち込め」

「誤解だぞ。このステファニーが故郷を見たいと言うから、連れて行ってやろうとしただけだっ!」

「こんな夜にか? しかもステフの護衛騎士を襲って? 無理があるな。俺はお前の嘘に付き合ってやるほど暇じゃない」

「儂は国王だぞ。ルコント王国の王なんだ! 儂を捕らえるなどできないはずだ。国際法によれば、儂はルコント王国の法律で裁かれる」

「国際法はこれほど重罪ではない罪を犯した者に適用される。しかし、ブリュボン帝国の皇太子妃を誘拐しようとした者は、誰であれ帝国の法律で裁かれる。お前は現行犯だからな。見ろ、人が集まってきたぞ。証人もばっちり揃った」

 ヴァルの言うとおり、この騒ぎに気がついた方達が興味津々でこちらにやって来る。そうして事の経緯を騎士達から聞き、口々に帝国に味方した。

「誘拐だって? あり得ない。ブリュボン帝国への宣戦布告か?」

「極刑だろう? ブリュボン帝国の皇太子妃を攫おうとするなど、情状酌量の余地もない」

「我が国としてはブリュボン帝国に味方します」



 まだ帰国していない諸外国の王族や高位貴族達が口々にブリュボン帝国を支持した。すると、ヴァルが満足そうに笑った。まるで、こうなることがわかっていたかのように。

 彼の後ろから私の専属護衛騎士達が、ほんの少し申し訳なさそうにこちらを見ている。

「あなた達大丈夫ですか? 怪我は? 大変、血が出ていますよ」

「いえ、これは本物の血でなく特殊な染料です。実は我々は倒されたふりをしていただけでして、怖い思いをさせて申し訳ありません」

 私はヴァルを振り返って彼に責めるような眼差しを向けた。

「ヴァル! 私はこのルコント国王に手を触られたのよ! すっごく怖かったのに」

 私は怒ろうとしたけれど涙のほうが先にこぼれた。とても怖くて気持ち悪かったのを思い出して、ヴァルの胸に飛びこむ。一刻も早くあのぬちゃりと湿った手の感触を忘れたい。

「手を触られた・・・・・・大丈夫だ。俺がいくらでも上書きしてやる。3日後に裁判にかける。帝国の法律でこいつは裁かれる」

 ルコント国王は騎士達に連行された。


 部屋にいたレオナード王太子とキャサリン王妃は「自分達は無関係だ」と主張した。けれど荷物はまとめてあるし、馬車も別途準備していたことが発覚する。途中で合流して帰国しようとしていたことは明白だった。きっとヴァルは許さないだろう、そう思っていると意外なことを彼らに告げる。

「お前達の言うことはひとつも信じないが、今すぐこの地を去れば罪は追及しない。だがルコント国王は、我が帝国の法律で裁かれる」

「はい! もちろんです。皇太子妃殿下を拉致しようとしたなんて、どうとでも裁いていただいてかまいません」

「そうですとも。お恥ずかしい父上で僕も呆れています」

「私達は何も知りませんでした」

 傍らにいるバーバラ王太子妃も必死になってうなづいた。

「そうだろうとも。しかし大罪人の家族をこれ以上宮廷に置いてはおけない。即刻帰国していただきたい」

 ヴァルが氷のような声でそう言い放った。


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 3日後に開かれた裁判でルコント国王は終身刑になった。どこかに一生涯監禁されるということで、私が二度と会うことはないだろう。

 その後、ルコント王国では革命が起き、レオナード王太子とキャサリン王妃は処刑されたとか、北の塔に幽閉されたとか、いろいろな噂が飛び交った。

「ヴァル、あの方達は民衆に殺されたの?」

「さぁな。他国のことだし政治干渉はできない。民衆に裁かれたのならそれは運命だ。今までの自分達の所業が悪すぎたのさ」

 確かにその通りかもしれない。そうして私とヴァルは甘い甘い新婚生活に入っていったのだった。






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