七瀬先生、ここから先は違法です
陽夏「あの、私を好きって完全に信じたわけではないですけど……仮に好きだとして、どこが好きなんですか?いつから?」
七瀬「水原は覚えてないと思うけど……二年前かな」
陽夏(二年前? 私たちどこかで会ってる? 七瀬先生は、今年の4月に新任教師として着任してきて……初めて会ったはず……)
陽夏「二年前って……」
七瀬「気になる?」
陽夏(……私の記憶の中に七瀬先生はいない。……二年前、どこであったんだろう。分からなくて……知りたい)
七瀬「俺のこと気にしてくれて、嬉しいなー」
陽夏「……っ」
ストレートに感情を伝えてくる七瀬先生に戸惑う。
七瀬「この話は、水原が『気になって仕方ないので教えてください』って言った時に教える」
陽夏「……い、言いませんよ?……もう、本当やめてくださいっ」
七瀬「……わるい、からかいすぎた。……俺の気持ちは迷惑か?」
申し訳なさそうに素直に謝るので、驚きと申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
陽夏「……え、えっと……」
陽夏(あれ?……あれほどやめて欲しいと思っていたのに、七瀬先生の申し訳なさそうな顔を見たら、よく分からなくなってきた)
『迷惑なのでやめてください』と言えばいいのに、その言葉は出てこなかった。
七瀬「……まあ、やめないけどな?」
陽夏「は?」
七瀬「水原は、こういう顔に弱いって新しい収穫があったな」
陽夏(……また、からかわれた!)
陽夏「……も、もう! やめてください! 迷惑です!」
からかわれた気恥ずかしさから、少し大きめの声になる。
七瀬「……俺が必要になることが来ると思うぞ?」
陽夏「……きません!きませんっ!必要になんてなりません!」
必要以上に大きな声とはっきりとした口調で告げる。
七瀬「……そっか、俺は水原のためなら、なんでも出来るから。それだけは覚えておいて?」
夕日のオレンジ色の光に照らされた七瀬先生は優しい笑顔を残して、教室を出ていく。
夏鈴(普段は笑顔を見せないくせに、私の前でだけそんな優しく笑うなんて……ずるい)
他の生徒への素っ気ない態度とは違い、夏鈴の前ではたくさん笑顔を見せる七瀬先生。そのギャップに夏鈴はドキドキさせられる。
夏鈴(……も、もう、意地悪な七瀬先生も、七瀬先生の言葉や仕草一つで、こんなにドキドキしちゃう自分も……全部いやっ!)
夏鈴は窓から見える、淡く色づく夕日を見つめながら嘆いた。
『俺が必要になることが来ると思うぞ?』
夏鈴はこの言葉の意味を……早くも知ることとなる。