七瀬先生、ここから先は違法です
夏鈴「……ほ、他の部員はまだこないのかな?」
焦った夏鈴は話題を変えた。
七瀬「こないよ?」
夏鈴「え?」
七瀬「小坂にも木下にも伝えてない」
夏鈴「な、なんでですか?!七瀬先生が自分で伝えるって言ったじゃないですか」
七瀬「あー、そんなの意図的に決まってるだろ」
夏鈴「え?」
七瀬「水原と二人っきりがいいからに決まってんじゃん」
夏鈴「……っな……」
七瀬先生は悪びれもなく、あっけらかんと告げる。
夏鈴「か、帰りますっ!」
急いで帰ろうとする夏鈴の腕を七瀬先生はぐっとつかんだ。そして掴んだ腕をパッとすぐ離す。
七瀬「わるい、触れないって言ったのにな……やましい気持ちは一切ない……いや、あるな?」
夏鈴「どっちですか……」
七瀬「俺は水原と一緒にいたい。一緒にストロベリームーンを見たいって思うだけ。……これもやましい気持ちになる?」
あまりにも優しい声で言うので胸の奥が、きゅっとなる。
夏鈴(……七瀬先生は、ずるい……)
夏鈴「……な、七瀬先生っ!」
夏鈴が言いかけた途中で、ドアのガラスから懐中電灯の明かりが見えた。
夏鈴(警備員さんが見回りしてるのかな?)
七瀬「……やべっ、」
夏鈴「え?やばいって、なんで?」
七瀬「……しっ!」
七瀬先生は夏鈴の腕を引っ張り、ドアから死角の場所へ移動する。
隠れる二人は距離が近い。あまりの距離の近さに夏鈴の胸の鼓動はドキドキと鳴り続ける。
夏鈴「せ、先生?隠れる必要はないですよ?許可取ってるんだから……」
七瀬「取ってない」
夏鈴「へ?」
七瀬「許可取ってねぇんだよ」
夏鈴「な、なんでですか?それじゃあ、見つかったら大変……」
七瀬「……しっ!」
七瀬先生は、立てた人差し指を夏鈴の唇に当てて、夏鈴の言葉を制止した。
七瀬「いい子だから……静かに」
七瀬先生は子供をあやすように優しく囁いた。
あまりにも優しくて色気を感じる声に、夏鈴の心臓がどくんと跳ねる。
吐息と共に囁いた声が耳に残る。距離が近くて直に感じる先生の吐息と、ぬくもりに夏鈴の心臓の鼓動は高鳴り続ける。
夏鈴(き、きき距離が……近い。すごくドキドキする……)
七瀬先生と夏鈴は、向かい合って身を潜めているので、お互いの吐息を感じるほど密着している。
夏鈴(部活動の許可も取ってないし、警備員さんにこの状況を見られたら……大変なことになってしまう……!)
コツコツ……警備員の足音が大きくなる。屋上に近づいてきている。
ガチャ、屋上のドアノブが回る音が響き渡る。
夏鈴(ドアを開けられたら、天体望遠鏡は置きっぱなしだし、バレちゃう……)
――夜空に輝く星空。
静寂な夜の空間に、ドアノブが回る金属音が鳴り響く。
夏鈴と七瀬先生は言葉を発せず、息を呑んだ。
【補足】
ストロベリームーンとは6月の満月。
ストロベリームーンには「恋を叶えてくれる月」の異名がある。